339.知らぬ存ぜぬ
ドアが完全に閉まると、オリオンは言葉を発した。
まぁ、アリエスが出ていくまで私の意図――アリエスには聞かせられないというの――を読んで言わずにいてくれたのだ。
早く語りたいだろう。
「俺さ。聞いて驚いたんだけど」
「あぁ」
「子守りで他国に行くわけ?」
「プロキノはそれを楽しみにしていただろう?」
「めっちゃくちゃ楽しみそうだったけどさ!俺が行くかどうかは別」
オリオンは子守りなど嫌だと遠回しに言ってきている。
直談判するまで嫌だとはな…だが、決定したことだ。断らせるつもりはない。
「バルナ達と話し合い、オリオンにはプロキノが適任だと結論付いたんだ」
「プロキノには俺が適任、じゃなく?」
「プロキノがいれば、女を口説きにくいだろう?」
オリオンは『適任』という言葉に引っ掛かりを覚えたようで、しばし考え込んだかと思ったらハッとして、
「なぁ、ロシュ?」
「どうした」
「俺、プロキノから『今度の旅行は、よろしくねー!』としか聞いてなかったから、詳細聞きにきたんだ…本当に旅行の事しか聞いてない」
と言ってきた。
オリオンは『本当に』と強く主張した。ここで私も彼が何に思い至ったのかを理解した。
「まさか…イブランから何も聞いていないのか?」
「…イブランさんとは今朝挨拶交わしただけで、何にも言われてないんだけど?」
「調査に関しては何にも聞いてないと」
「調査?なんの」
私は他言無用と前置きしてから、バルナ達とした会話を簡潔に伝えた。
「――話は以上だ」
「……」
「それともう一度言うが、今のこの話はバルナ、サジリウス、イブランそしてオリオン、お前しか教えられないものだ。誰かのいる所で知り得ている者同士で語ることもするなよ」
「あーうん。分かった…」
どこか上の空のオリオンに、私は彼が思っているであろうことも聞いてみた。
「私に想い人ができるのがそんなに意外か?」
「意外というか…ロシュはずっと1人かと思ってたからさ。こう、俺や周りが支えるやらないとな!って、考えてたわけ」
「それはありがたい考えだな」
「でもさ。連れができるのなら……」
オリオンは突然言葉を詰まらせ、静かに泣きだした。
これには私も動揺しそうな程驚いたが、本人から少し待ってほしいと言われた。
……支えるという考え以外にも別の思いがあったのだろうな。
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