333.からかいへのちょっとした報い
イブランは何かを受け入れるように、私が恋しているという事を改めて言った。
「私は先程からそう言っていたんだが……」
「言葉が足りませんよ!」
「まぁ、そう思っていたが、バルナが説明してくれただろう?」
「えぇ。それでよーく分かりましたよ」
「そうか」
理解してもらえて重宝だな。
「それにしても、初めて恋愛を抱いたのに平然としていらっしゃるんですね?」
「平然としているのは今だけだろう。戸惑いと迷いが強いうちは平然と見えるだろうが、恋情を自覚していけばしていくほどに自分がどうなるのかが、分からん」
それこそちゃんとした『恋情』など初めてなのだからな。
「ゼイラルの前で赤面とかするようになるかもしれませんねぇ」
「好きで照れると?」
「えぇ」
うむ。好きで照れるのはライラ達で経験しているしな。それがより強く出るくらいだろう。
――ロシュは家族間であった照れた経験が、恋情でもあるのだという解釈をした。
しかし、イブランとの会話を黙って聞いていたサジリウス、それとバルナが彼を責め始めていた。
「イブラン。ロシュ様をからかうのはやめなさい」
「いや、別にからかったつもりは…」
「あなたに無くても我々はからかっているように見えましたよ。全く。初めてだからといっているロシュ様に向かって、からかうようにニヤつくなど…」
――ギロリ。
おぉ。私はサジリウスとバルナが、イブランを流し目で睨み付けていた。
流し目に見えてたのは正面にいたからだろうが。
「お、お前達夫婦に睨まれるのは肝が冷えるな」
「昔からお前の失言を矯正してきたからだろう」
「教育の賜物ですね」
「そうだな」
古参の使用人達の昔を懐かしむような会話に、私も昔の彼らを思い出した。
その思い出の中には両親や姉夫婦もいたが、私もああいう仲睦まじい関係まで発展できるのだろうか?
はぁ。これはまた悩みが増えたな。そう考えると恋情は悩みしか生まれ……うむ。今はこれ以上考えるのは止めておこう。
――ロシュは自分の思考が、損得を考える必要のある仕事思考となるのを途中で振り払い、使用人の助言を待つことにしたのだった。
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