328.妥協案
うむ。しかしどうしたものか。私としてはゼイラルの手料理が食べてみたい。
だが反対するアリエスを納得させてやらないとな。使用人としては正しいことを言っているのだから。
……。
――ロシュがしばらく黙り混んでいる間、他の者達は決断を黙って待っていたのだが。時々アリエスがゼイラルを睨むように見ていたため、スロウは居心地が悪くて堪らなかった。
何せゼイラルの隣には自分もいて、その視線を半分は受けていたのだから。
「アリエス」
「はい」
――ロシュが発言したことでアリエスはロシュへと意識を向けた。
「スロウかサヤンキが作れば問題はないのだよな?」
「はい。グランツェッタ家の料理人ですので」
「ゼイラル」
「はい」
「誰かに指示を的確に出せるか?」
「的確には出せないかもしれませんが、自分の伝えたいことは伝えられます」
アリエスもゼイラルから、私がしたいことに必要な答えは得られた。
「ならばゼイラルの指示のもと、スロウかサヤンキのどちらかに作ってもらえば安心だろう?」
指示を出して作らせるのは、もうゼイラルの『手料理』とは呼べないかもしれないが、似せて作る事は出来るだろう。
おいおいもっと仲良くなれば、彼自身に作ってもらえる日が来るだろう。
「確かにそれならば…問題ありません。ロイ様のご判断に従います」
アリエスはまだ客人が…いや。ゼイラルが料理を作ることに納得はいっていないようだが、妥協案が出たことにより、自分の危惧した事が解消されたためか、それ以上は反対することはしなかった。
あれこれダメだと粗探しするような言動は、余程の事がない限り彼女はしたくないのだろう。
本来の『使用人とは』、主人の指示や命令に従うだけで、意見や反対を言う者ではないのだから。
「ではゼイラル。今の案で再度頼む。料理を振る舞ってくれないか?」
「はい」
「ゼイラルの指示は自分が受けましょう。サヤンキには経験が足りませんから」
「あぁ、頼んだ」
それからさらに話を詰めて、スロウの指示でゼイラルが作る料理は副食となり、ライラ達には出さないということに決まった。
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