322.偏見を抱かせた
10月ですね
アリエスが私の部屋を訪ね、私達は朝の挨拶をかわした。
それから彼女は私の身体を触診し、処置を施し始めた。
処置といっても傷口に貼ってある布と包帯を新しいものに変えるだけだ。
アリエスは手を動かしならがら、ゼイラルに無事に資料を届け、彼からの言伝てである『朝食後に1度話したいです』ということを伝えてきた。
資料をどの程度まで読んでの話かは知らないが、そこまで分厚い量ではなかったから、半分程は読んでくるだろう。
それに納得し、分かったと答えた私に、
『ゼイラル様と会っていたようですが、どんなお話をされたのでしょうか?確認までにお話しくださると幸いです』
と言われた。
やはり、部屋に男をしかもゼイラルを入れたことに不満と怒りを感じているのだろう。
ちなみにアリエスは、ゼイラルから『アリエスさんの方が年上なので呼び捨てで構いません』と言われたようで、私さえ不愉快でなければ、今後は呼び捨てで呼ばせてもらいたいと言ってきた。
彼本人がそう呼んで欲しいのなら、身内しかいないのなら呼んでも良いと私は返答した。
アリエスにゼイラルと話した事を簡潔に伝えると、1日彼の滞在が伸びたことは別に気にしないが、2人きりになるのはやめてくれと言われた。
「男性は弱っている女性に付け入り、言葉巧みに励まし、好印象を与えて自分に関心を寄せるのです。それでは純粋な恋愛途上とは呼べません。卑怯でしかありません」
実体験による経験があるからか、説得力はあるがアリエスが経験したのは、恋情を持たせるためのものではなく、ただちょっかいをかけて遊んでいたオリオンのせいでついたものだ。
彼女が見習いメイドの時、失敗で落ち込んでいた所を励ましたのがオリオン。
『いい人』とアリエスが抱く前に彼が、『まぁ?ここで失敗したって怒るのはバルナさんかサジリウスさんくらいだから、他で失敗したって笑って許してくれるって!』と。
長の使用人には怒られ、仕える家の縁者に笑って許されることは、当時のアリエスにとっては、家主らに失敗が当たり前だと思われ、そのせいで他の者に仕事を回されるかも…と嫌で仕方なかったらしい。
まぁ、今は自分の力量を分かっているため、出来ないことは他に任せるし、指示には不満を持ったとしてもきっちりとやり遂げるなどの考えに纏まっているようだ。
だが一言でアリエスに男は~と警戒させしまうオリオンも凄いと思うが、皺寄せが私に来るのは違うと思う。
そんなことを考えつつ、私はアリエスに当たり障りのない返答を返した。
「そういうものか?」
「はい」
まぁ、すでに心が彼の方へと揺らいでいる私にはいらぬ警戒だかな。
このあと私はサヤンキにも丸1日1人分増やすように調理場へ伝えに行ったのち、朝食前まで執務室で仕事をした。
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