318.視線
トイレから出た私は、サヤンキとは途中で別れた。
あとは部屋に戻ってベガが帰ってくるのを待つだけだと思っての判断だ。もしもの時は声をあげればメダもいるしな。
サヤンキは仕込みのためか、少し駆け足で階段を降りていった。
本当は早めに仕込みに取りかかってしまいたかったのだろう。
なかなかないからな…スロウが全ての仕込みをサヤンキに任せるとなど。
「ん?」
ふと視線を感じた私はその方向へと顔を向けた。
すると客室のドアが少し開いており、そこからゼイラルがこちらを見ていた。
大声で喋っていたわけではないが、サヤンキとの声が聞こえて気になったのかもしれない。
数秒ほど私もゼイラルも動くことはなかったが、見ていたところ彼の瞳は、行動は、私に萎縮するものではないと判断できた。
これなら話ができそうだ。
ゼイラルの部屋の前まで近づいていくと、彼はドアを開けて頭を下げてきた。
「ロシュさん。昨日は申し訳ありませんでした」
「いや。もう大丈夫そうだな」
「はい…その。スロウさんに話を聞いていただいて落ち着くとこが、出来ました」
うむ。顔色もいいし、表情も…申し訳ないという感情でいっぱいだ。いや。これは良くないな。
「…その辺りのこと、もう少し詳しく教えてくれないか?まだ話の続きがあるんだ。言い方は悪いが、また失神されるとこちらも困るのでな。すまない」
優しい言葉で包むようなことはできなかった。
何故だろう?真摯な者には真摯にとでも考えていたのか?
「いえ!私のほうこそご迷惑を…」
「ならとりあえず私の使っている部屋に――」
「え?」
驚きを見せたゼイラルに私も少し驚いた。何に驚いたんだと。
「どうした?」
「その…ロシュさんは女性であられるので…」
「私としては女の部屋に男が来るのも、女の部屋に男来るのもどちらも代わりないだろうと思っている。来させる理由をつけるなら、私が部屋からいなくなっていると、警備が少し慌てそうなのでこちらに来て欲しい」
ベガのように紙に書いておけば良いのだが、アリエスにゼイラルの部屋にいた、と伝えられるよりは自分の部屋に招いたと伝えられる方が、まだ小言もマシだ。
「分かりました。では、お邪魔いたします」
「ああ」
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