313.自責2
ゼイラルへ私が襲われた事を話してから、彼は負の感情でいっぱいいっぱいになってしまった。
ゼイラル・ムーロン。
彼は幼い頃から鍛えられ側についた元王太子付きの騎士であった。
あらゆる事態を想定し、王太子を守る仕事をしていた彼だが、さすがに『恋心』を抱いた相手――私をを想って出た国から私を襲うような相手を連れてきてしまったのだ。
自責の念を感じてもしても仕方がない。
それに忘れてはいけないが、彼はまだ16歳なのだ。初めてともいえる初恋相手が……と今も自分を責めているのだろう。
ゼイラルから外していた視線を戻すと、彼は俯いたまま身体を小刻みに震えさせていた。
「――っ――……」
「ゼイラル?」
――バタッ。
私が声をかけるのと同時に彼はソファーへとたおれこんだ。すぐさまアリエスが側に寄り、ゼイラルの様子を診みた。
「…過呼吸による失神です」
「そうか…。少し刺激が強かったか?」
「そうでもないと思いますが…もしやこうした経験が少なかったのではないでしょうか?」
デネヴィーは、暗に『大怪我を伴う対峙の経験が少なく、それに私がなったという話に衝撃を受けて失神したのでは?』と言いたいようだ。
ゼイラルから母国での騎士仕事の内容までは、手紙にも本人からも聞いたことはないため、無い話ではないが。
「暗躍ならば、あちらの国の方が苛烈だろう。私だったからより深刻に受け止めた、というのは自意識過剰か?」
「自分を責めていたようですし、有り得ない事ではないと思います」
「それしかないと思う」
私の考えにアリエス以外は賛同している様子だった。
「とりあえずロシュ様。このままゼイラルをここで寝かせときますか?」
ゼイラルの身を案じてイブランは、『休ませる場所』をどうするかを聞いてきた。
「いや。客室へ寝かせておいてくれ。じきに起きるとは思うが、この際泊まっていかせよう。まだ話は終わってないのだしな」
部外者を、今の警戒警備状態で泊まらせるのは危険…という奴も、ゼイラルならば文句は出ないだろう。
ある程度の人となりと実力を分かっているのだから。
「まだ話を聞かせるんですか?」
イブランは訝しげにした。が。
「落ち着いたら本人から聞かせてくれと言い出すだろう?」
「随分と分かっておられるんですね?」
「手紙のやりとりだけでも性格は分かっていくものだ。真面目がついていれば特にな」
真面目さが分かるのは使用人の中にも、ゼイラルと似た真面目な奴がいるからなのだがな。予測は出来る。
「私の顔に何か?」
「いや」
同じ真面目でもデネヴィーは自責しながら原因を探り、解決しようとするからな。
その後。意識を取り戻したゼイラルだったが、まだ心の整理がついていないと、ハッキリと分かったので、イブランによって抵抗なく客室へと運ばれた。
…私が声をかけただけでビクリとしては、私の存在を見聞きするだけで自分の自責を思い出している、と判断するに決まっている。
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明日は日曜日のためお休みです。
また月曜朝9時にお会いしましょう。
誤字報告はありがとうございます。