312.自責1
梯子とゼイラルが落ちてくるという事故はあったものの、それ以外は何事もなかったため、設置と不備がないかの点検を終えたノルイは、乗ってきた荷車で帰るため屋敷を後にした。
ゼイラルはというとアリエスからの勧めでバルナによって治療が施され、現在は応接室にて待機してもらっている。
その間に私はアリエスからの触診と治療を受けていた。
やはり受け止めたときに変に力が入ったらしく、傷口が少し開いてしまっていた。ただ、縫合するほどではないとのことで処置後すぐにゼイラルの待つ応接室へと足を運んだ。
「待たせたか?」
「いえ。大丈夫です」
「そうか。ならもう少し待ってくれ。説明役は多い方がいいからな」
「?」
約30分は待たせていと思うのだが、ゼイラルは大丈夫だというので話はまだせずに、今からする話に関して関わっている者達が来るのを待ってもらうことにした。
いや。話していてもいいんだがな。私も報告を受けただけで直接聞いてはいない。
本人から直接聞いた者が入れば、細かなニュアンスの違いがあったとしても説明してくれるだろう。
なんなら話をするのは私からではなくても良いのだが…さすがにそれは被害を受けた者として、家主としてはそうも言っていられないからな。
私が応接室に入室してから5分ほど経った頃。
「お待たせしました」
「待たせました」
応接室にイブランとデネヴィーが入ってきたことで、必要な者達は揃ったので改めて姿勢を正した。
「さて。ゼイラル・ムーロン」
「はい」
「これからする話は確実に君を後悔の思考へと落とすものとなるだろう。それでも聞いてもらわねばならない。覚悟してしてるな?」
「…どのような内容なのかは分かりませんが、皆さんの真剣さは身に染みていますので、覚悟をさせていただきました」
「すまないな。強引で」
「いえ」
「ではまずは私の主観から話し、その後使用人達が仕入れた情報を提示、証言を伝えさせてもらう」
「……はい」
ゼイラルは私が襲われたと聞き、心配をしてくれたが相手が魔法を使用したと言えば、感情は心配ではなく驚愕になり…
その者がゼイラルを狙って私を襲ってきたと聞けば、しばらくは『申し訳ありません…申し訳ないです…』と謝罪の言葉を吐き続けた。
いくら覚悟してしても、自分が原因だと分かれば普通の人間は平静など保っていられる訳はない。
とりあえずはゼイラルの心が落ち着くまでは、話を中断することにした。
こちらの声も半分届いていないようだからな。
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――自責
自分のせいだと責めたり、悔いたり、悲しんだり、怒りを自分に向ける心。
の解釈で使用しております。