311.恥
助かった我々に駆け寄る使用人達とノルイ。
まずアリエスは私の怪我の心配をしてきたので、新たな怪我はないと伝えた。
「…分かりました。ですが後程大事をとって詳しく診断いたします」
「あぁ」
私の意図を読み取ったアリエスは、次にゼイラルへと怪我や痛みはないかと問診から開始しだした。
確かに怪我は出来ていない。
だが前からあった傷口が痛む感じはしたが、ここで怪我をしていると言えば経緯を聞かれる可能性もあるため、『新たな』怪我はないと言う事で、誰かしらは傷口の事に気がつくだろうと思った。
そしてアリエスが気がついた事で意図は確実に伝わり、後に触診と治療を『怪我がないかを後で診るんだな』という理由をノルイとゼイラルがいる手前。
知らしめてから受けれることにしなければならなかったからな。
まぁ、こんなことをしなくてもアリエスや他の使用人は心配して休めと言い念入りに怪我はないかを触診させるだろうが。
「――擦り傷と打ち身はあるようですが骨や重要な血管には大事ありませんね。後で塗り薬をご提供いたします」
「あり、がとうございます」
アリエスの診断を受け結果の出たゼイラルは、顔を赤らめながら礼を言った。
「それとロイ様」
「なんだ?」
「僭越ながらゼイラル様はロイ様に抱き止められたこの状況下に恥じらいを持たれて顔を赤らめられています。お離しになられて差し上げては如何でしょう」
「――っ!」
――ゼイラルは片手で瞼を押さえつけるように顔を隠した。
自身を受け止めた状態で平然と話すロシュに『離してくれ』とは言えず、受け止められた状態でずっといたゼイラルは、意中の相手と『身体が接している』という状況下から一刻も早く脱したかった。
が、自身の精神状態を言葉され、感性が膨張した結果、ロシュを見ないようにした。
――しかし誰にも言わなかったロシュは、きちんとゼイラルが恥じらいを持っていたことを分かった上で、放置していた。
恥じらいより状況把握、体勢改善より状態確認。
先にやりたいことがゼイラルの気持ちを放置する結果となっていたに過ぎないが、ロシュは今は言うつもりはなかった。
本人が望んでいるのなら、早めに対応するべきだとロシュはゼイラルを座らせるようにして彼から離れ、立ち上がった。
「……すまないな、気がつかなくて」
「い、いえ」
ゼイラルとのその様子を見ていたノルイも、アリエスの言葉を聞いて急に顔を赤らめたが、それだけは何故だが分からなかった。
――ノルイが感じたのは、共感性羞恥。ゼイラルの感情を自身の事のように感じてしまったために、顔を赤らめたのだった。
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共感性羞恥は本文記載の解釈で使用しています。
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