306.感情の起伏1
ゼイラルから粗方話を聞き終えたと判断した私は、彼に話を通す事にした。
「ゼイラル。ノルイの手伝いが終わったならここに留まってくれないか?話がある」
「話?」
ゼイラルは不安そうな表情をした。
「あぁ」
「それは今は話せないことなんですか?」
それもそうだろう。
長らく手紙のやりとりなくいきなり『話がある』と言われたら、彼にとっては私との関係性が崩れるような事を想像するものだ。
だがすぐには話すつもりはない。
「仕事を手伝うためにここに来たのだろう?今話しているのは確認のためだから良いが、話したいことはノルイには関係のないことだ。先に予定していたことがあるのなら、それを済ませてからでもこちらは問題はないからな」
「…分かりました。では私はノルイさんの所へ行きます」
ゼイラルは素直に私の言葉を聞き入れると、ソファー立ち上がった。
「あぁ。今はイブランとスピオンも手伝っているから、メインの手伝いを取られないようにな」
「はい」
――ロシュが最後に言った『取られないように』という言葉に、仕事を手伝うために来たのにも関わらず、それを取られてただ見ているだけになってしまっては、元も子もないな……。
と、心の中で思い、ゼイラルは苦笑いしつつ返事を返した。
「アリエス。ゼイラルをダイニングまで連れていってくれ」
「……かしこまりました」
――アリエスは『何故自分が…』と不愉快に思いつつ、それをなるべく出さないように返事をした。
アリエスはゼイラルに『こちらです』と先導するために声をかけるとそそくさと出入りへ向かっていく。
彼は私に一礼するとすぐにアリエスを追って、応接室を後にした。
「ロイ様。アリエスとゼイラルを2人きりにしたら、ゼイラルが小言言われるよ?」
2人が完全に部屋から出ていったのを確認してから、アリエスと共に私の後ろに控えていたレオが、現実的になりうる情景を口にした。
ちなみにベガは部屋の外で待機している。警備の二段構えだ。
「前のゼイラルなら怖じけづき黙り混んでいたかもしれないが、先程アリエスに睨まれてもすぐに返答していた。苦手でも大丈夫だろう」
まぁ、感心と呆れを同時に感じたために、揺らぎなき意思は私の前だから、と見栄を張っていたかもと。
アリエスと2人きりにした時、どういった言動をするのかが気になってしまったのだが。
好意を持っている者と苦手意識を持っている者とでは、心意気も揺らぐだろう。
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