300.覚えがある2
ノルイは戸惑いながら私に『何故、姉の名前を公爵様が…?』と、疑問を返してきた。
小声を聞かれていた事より、身内の名前を知っていたことに2人は驚きと疑問を持ったようだった。
「カナン・マカランが店を出すと書類で見まして。不備不正がないか調べるために家族構成を見たのです。そこで『ノルイ・エクナム』というお名前も拝見しました」
「ロシュ様…2人を知っていたのですね」
「いや。あくまで知っていたのは名前と職業などで、家族の関係性はほとんど知らない」
「そうですか」
敬語を外さずに私に知っていたのかと問うイブランに、知っている事と知らない事があることを伝えた。
人柄に関しては、何度か接しただけで熟知はしていない。
しかし、カナン・マカランは誰かを脅すような人には見えなかった。…いや。先程の話を踏まえると無作法を働くなと、言っただけではないか?
それをノルイが過剰に意識してしまっている。そのような気がしてならない。
兄や姉がいて幼少期に気が弱かったりすると、稀に親愛の中にも『畏怖』を抱き、逆らうと何を言われるか…と考えてしまう。
ノルイはそれなのだろうな。
「ノルイさん。カナンさんは私に会うと言った貴方に何と言っていましたか?」
「『ロシュ様はとても気さくで領思いの人だよ。そんな人に仕事を頼まれたんだから気合い入れな!』と」
「そう言われた貴方は『ロシュ様に無作法を働くな』と考えて敬語が外せないと言うことですね」
「はい……え」
「親父の思考が読まれてる…」
思考の半分以上が言葉に出てて読みやすいだけだ。とは言わないでおく。
「カナンさんはただ貴方が気負うことはせず仕事に集中しろ、と言いたかったのでは?」
「ほら親父。俺もそうだって言ってただろう?公爵様ですらそう考えて言ってるんだから、ね?普通に喋らせてもらおう」
――ロシュと息子のディーバが言っているという事で信用性があると判断したノルイは、意を決して口調を砕けさせた。
「…公爵様。わ、しは、ただの学の無い、職人だ。だから…」
『だからもっと高度な技術が欲しいなら学のある別の者にした方がいい。』
「少なくとも職人に必要なのは『学歴』ではなく『技術力』だと思っています。貴方はイブランが、領主である私に勧めてくるだけの技術を持った人なのです。自信を持ってください。…ひとまず我が家では楽に仕事をして下さって構いません。ただ、家の中を単独で歩き回るのはご遠慮下さいね?探しに行くイブランが走り回ると煩いので」
「え?!何が煩いんで?!」
「はははっ。そこまで非常識なことはせんよ」
「だね」
ノルイにかけた言葉の最後に、イブランをダシにして気を解す事に成功した。
親しい者だからこそ、彼への『煩い』という意味が伝わった。
それから口調が砕けた我々は、屋敷につける鉄格子関しての話を始めるのだった。
ちなみに。
イブランは走る時の癖なのか、足裏の爪先付近を叩きつけるようにして走る。
必死であればあるほど、闘志があればあるほど良く響くのだ。
まぁ、長年の癖で尚且つ仕事に支障がないため、指摘はしない。
が。
土や野原以外では響いて煩いので、あまり走らせたくはない。
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300話目
長らく読んでくださっている皆様、初めて読んでいる皆様も、ありがとうございます。
これからも『領地を愛する私は』を、よろしくお願いします。
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