299.覚えがある1
9月ですね
ソファーに座った私は、ノルイが仕事を請け負ってくれた事に感謝を述べた。
「今回はこちらの依頼を受けていただきありがとうございます」
「こちらこそ恐悦至極でございます」
「ロシュ様。彼とはもう少しフレンドリーに話をしませんか?」
話始めてそうそう、友人でもあるノルイが敬語でいることが嫌だったのだろうイブランは、私に提案という形でもっと親しげに話したいと言ってきた。
私としてもイブランの友人だという点から悪い人間ではない、だろうと踏んでいるため、別段構わないのだが。
「……と。我が家の騎士で貴方の友人が言っておりますが、如何しますか?」
「恐れ多く…」
「そんなに怖い人じゃないぞ、ロシュ様は」
断ろうとしていたであろうノルイに、イブランはまるで『敬語なんてこの人には不要だ』と言いたげなニュアンスで、声をかけていた。
さすがにノルイ本人が敬語を取るとしていない状況で言わなかったのは、少しだけ意外だった。
目上の人間の前と、他者との仕事中だけ言葉を取り繕い、それ以外だと本来のように喋るイブランが。
繊細な人間なのかも知れないな。
イブランの言葉に沈黙をし続けるノルイに、隣にいたディーバが小声で話かけていた。
「親父。イブランさんが大丈夫だって言っているんだから、言葉崩せばいいんじゃないの?」
「そのようなことできるか!姉さんに話をすると言っているんだ。あとからなんて口の聞き方をしたんだ、と怒られるのはわしだぞ!」
「叔母さんだって、フレンドリーに話しかけても大丈夫だったって言っていただろう?なら、大丈夫だよ」
「だが…」
確かに2人は小声で会話をしている。しているのだが。
「その姉さんとは雑貨屋のカナン・マカランさんかな?」
「「え?」」
静かな部屋での小声は普通に話しているのと何らかわりはないのだ。
話は筒抜けで、ノルイが『姉さん』と呼ぶ者に遠慮し、敬語にしていることも。
さて。私は1番近くの街で新しい事があると、不正や不備がないかある程度の家族関係を調べる事がある。
その中で『ノルイ・エクナム』と『カナン・マカラン』という名前の2人が姉弟であるという書類を見た覚えがあった。
だが、まさかこの話をすることになるとは思わなかった。ご婦人はあくまでも姉であるというだけで、この仕事には関係ないとイブランにすら言わなかったのだが…
関係ありそうなら話にするしかないだろう。
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