294.睦まじい
こども達と仕事をし始める前、2人は専属の使用人に声をかけられていた。
「ライラ様、お手伝いしてほしいことがあったら僕に言ってください!」
「うん。手伝って欲しがったら言うよ」
ライラはアルタから手伝いを申し込まれていたが、素っ気なく返事を返していた。
もし彼に『手伝って』と言えば、私が与えた整理仕事が奪われることを危惧しているのだろう。
アルタはライラの事になると要求以上の事をしてくれるからな
…まぁ、自発的に行動している今の状況では『自発』を妨害されかねないからな。
素っ気ない反応は至極当然のことだろう。
「あの…紙で手を切らないように、気を付けてください、レイラ様」
「えぇ」
一方、レイラの方はジェミネから怪我の無いようにと声をかけられていた。
私としてもそれは気を付けてほしいことだったため、優しくそれを見ていたのだが、レイラを見ていたジェミネと視線が合わさると彼女は、ビクビクと緊張を増したような態度となった。
…いまだにジェミネから怖がられているようだ。レイラに向ける信頼と信用をもう少し私にくれても良いと思うが、当主だと言って無理強いはしない。
…ただ、強引に距離を詰めたいな、とは思ってしまう。もしかしたらその気持ちがジェミネの癇に触っているのかもな。
こども達と仕事をし始めてから時間が経ち、2人がいることでいつも以上に仕事が捗る……事はなく、滞る事もないと感じた。
それはそれは良くも悪くもライラとレイラが隙を見つけては、使用人達共に、私に休憩を取らせられていたからだ。
普段ならば私は1つの地域での書類、または一山無くなるまで休むことはない。
だが、2人は私が集中力を入れ直す瞬間を見定め、『休憩とろう』や『一息つこう』と言って仕事を中断させていた。
怪我を心配してのこと……ではなく、書類整理が追い付かなくなりそうで、手持ち無沙汰にさせるのが嫌だったからだ、と数度目の休息時に聞くことができた。
ライラとレイラ曰く、とうさんよりは仕事が無いだろうと思っていたけれど、指示された書類を持っていったり回収するのは思いの外大変だったと。
毎回、手伝っているアリエスさんやレオさんには敬意しかない。と羨望の眼差しを向けていた。
向けられたアリエスは恥ずかしさそうに、そして迷惑そうだったがな。
それはそうだろう。主の子から使用人である自分が『憧れ』や『目標』に近い感情を向けられたのだから。
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『癇に触る』
気に入れない感じ。「癇」は過敏な神経をさすこと。
の意味を適応しています。