293.一端を任せるためには
おはようございます
あの後、5分経ってもライラは戻ってこなかったため、整理以外での仕事をし始めた。
自分から手伝いたいと言っていたのだ。放棄するとは思わない。さしずめ着替えに行ったのだろう。
しかし執務室に戻ってきたライラは確かに着替えてはいたのだが、後ろにアルタとは別の人物、レイラを引き連れてきた。
日に2度も予想外が起こると慣れるものだな。
私は少し驚きつつもレイラの来訪を受け入れた。
「とうさま!ライラだけに手伝わさせるなんてズルいですわ!」
部屋に入ってきたレイラは開口一番、ライラだけが私の手伝いをすることにズルいと言ってきた。
ズルいか……。
「ライラが手伝いたいと言ったのを了承しただけだ。だがその様子だと、レイラも手伝いたいということだな?」
「もちろん」
「ライラが手伝うことを『ズルい』という言い方をする者には、当主として領主として、手伝わせることは憚られるな」
ズルいとは、羨ましいという感情からきている事もある。レイラが言って使ったのもこれだろう。
だが、羨ましいから自分も手伝いたいということなら、レイラに手伝わせることはできない。
その事をレイラに伝えることで、自分の言葉に対して反省の意思を見せたのならまだ許せるのだが……。
「……ライラを羨んでズルいと言ってしまったこと、謝罪いたします。申し訳ありませんでした。ですが、私は心から領地や領民のために当主の手伝いをしたいと思っています」
「短時間で謝罪し、乞う言葉が出てきのだ。本心だと捉えておこう」
実際、すぐにあの言葉が出てくる脳の回転の早さには感心し、嬉しくもある。
その嬉しさを隠すため、少しばかり意地悪い言葉を発してしまった。
「本心ですわ!」
「分かってる。ライラもレイラも言葉巧みになったことが嬉しくてつい、な」
ムッとした表情のレイラに、素直に嬉しかったからだときちんと伝えた。
「もう!さ、とうさま、いえ。当主様。私達は何をすれば良いですか?」
「と、言っても書類整理しか許可されてないけどね」
「え?そうなの?」
レイラに何の説明もしてなかったのか。と思いつつ、彼らに言葉をかけた。
「記入項目のある書類はまだ早い。書く手伝いをしたいのならこれからも手伝いをすればいい」
「「それって…」」
「お前達の『力になりたい』という気持ちを汲んでの事だったのだが?」
「ありがとう!とうさま!」
「ありがとう!とうさん!」
2人は揃って感謝を述べた。
今後も手伝わせることで緊急時に色々とやらせられる……かどうかは今日の働き次第だが、例え働きが悪くともやらせ続ければ覚えるだろう。
――ロシュはこども達に『領地』への仕事の一端を任せるための計画を頭の隅で考え始めるのだった。
「だが次からは手伝いたいのなら前もって言ってくれ」
「もちろん」
「予定は大事ですわ」
「あっ。でも今回は見逃してね?」
「ふ。今回だけだからな」
仕事を突然やらせることは、時間浪費や失敗のリスクもあることだと理解しているこども達で良かった。
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8月ももう終わりですね。
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