291.かけるおもいと気遣い
さて。ここからはライラに理解して……いや。聞いてもらうだけにして、何故私がそこまで仕事をするのかを知っておいてほしいと思う。
「ライラ。私の仕事には領民の生活がかかっているものもある。それは理解しているな?」
「もちろん」
ライラとレイラには『領主の子だから、領地に関しては何も知らない』という事にはさせたくなかったため、『領』に関しての勉強もしてもらっている。
「ならば大幅に遅らせることが出来ない理由も分かるか?」
「分かるよ。指示側が感じる1日分の遅れと受ける側の1日分の遅れの感じ方が違うってこと。……だよね?」
「あぁ。だが理解していても手紙の応答に書類作成などで遅れるものは遅れる。その遅れを取り戻すには出来るときに全てやることにしている」
「でも王都に行ってた時は…」
「王都に出向いた時は、事前に予告を出し遅れる旨を伝えた上で、サジリウスらに任せられるまでにしたが、今回の怪我は予期せぬものだった」
領民達は『国』からの指示を私に断れとは思っていないらしく、今では王家で生誕祭が開催される時期になると、書類や手紙の最後に『生誕祭へは参加されますか?』と書かれるようになっていた。
有り難い気遣いだった。
長々とした文章で『生誕祭へ行く』と何通も書くのは結構な重労働だった…
事前に行くことさえ分かってもらっていれば領民達は『改善案』ではなく、『改善後の報告』の書類や手紙にしてくれるからな。
だか今回怪我したことで、解決すべき書類が遅れてしまった。
「アリエスさんはとうさんの仕事を理解してるから、止めないってこと?」
「あぁ」
「アリエスさんは納得してくれたの?」
「これは辛辣な言葉かもしれないが、使用人からの忠告は聞き入れ、検討するが、最終的な判断は私がする。文句は出させない」
「……」
まぁ。強行をして失敗したことはなかった……はずだがな。
私の言葉に俯き沈黙してしまっていたライラだったが、顔をあげ私を見るなりニコッと微笑んだ。
…人というのは時に笑顔の方が鬼気を感じるものだなと、あらためて実感した。
「ねぇ、とうさん。俺にも仕事を少しだけ手伝わせてね?今こそ勉強の成果を見定めるときだよ」
――ライラは『手伝いたい』でなく、『手伝わせてね』と、仕事をやらせてもらうとが決まっているかのごとく、またロシュが拒否しづらい言葉を続けたため、ロシュは即座に断る事ができなかった。
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――ロシュがライラに伝えたかった思いの中には、責務から怪我ごときで遅らせたくはないという考えもあった。