287.力加減
アリエスを引き連れ、数日ぶりにトイレ以外で部屋の外へと歩き、1階にある執務室へと向かっていた最中。
玄関口でサジリウス、そして指示を受けていた使用人達からも驚きと心配、そして安堵の言葉をかけられた。
全使用人は、1度は見舞いに来たはずなのだが、やはりこうして動いているというのを目視することで、感じるものがあるということだな。
私も怪我人が歩けるまでに回復した姿を見たら、『あぁ、動けるまでになって良かった』と思うだろう。
別の理由も含まれていたとしても、こっそりと後をつけたくなる気持ちも、分からなくはない。
――ロシュは執務室の前まで来ると後ろへ振り向き、声を発した。
「おはようライラ。良かったら茶でも共にするか?」
「…うん」
2階から降りている最中、壁際からそっとこちらを除くライラが見えていたのだが、一瞬心配そうに不安そうにも表情を見た。
駆け寄りたい抱きしめたい衝動を抑え、きちんとした場で話をするために、執務室までただただ黙って後をつけさせた。
アリエスが小声で『ライラ様が…』と言ってきたため、『人数分の茶を頼む』と返した。
茶を飲むのなら座ってだと理解したため、彼女も黙っていたのだ。
執務室に入るとライラに近き、その身体をそっと抱きしめた。
――ぎゅー!!
「もう何度目にもなるが、心配をかけたな」
「と、うさー…く、」
――ロシュはあたり動かしていなかった筋肉は、抱きしめるという行為で、本人が思っているよりも倍の力でライラを抱きしめてしまっていた。
「あぁ。すまん。力加減を誤った」
「はぁ……ふぅ……。別にいいんだけどね」
私の腕の中で苦しみから解放されたライラが息を整えつつ加減を間違えたことに対して、気にしてないという言葉をかけられた。
体が締め付けられて痛かっただろうに。
――ロシュはまだ知らない。
ライラが痛いと言わなかったのは、突然抱きつかれたことに驚いて、痛みより先に呼吸を塞がれた事で本当に苦しかったのだということを。
そしてライラ本人は痛かった、苦しかったよりもロシュが力めるようになるまで回復した事が嬉しかったと、そう思えたからこそ一言謝られただけですんなり許したのだった。
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