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286.信頼ありきの嘘の善意


事件から4日目の朝食後。


私は現在アリエスによる最終確認を受けていた。



「ではロイ様。まずは『いー』と伸ばし声をお出しください」

「いー」

「…では『あー、えー、うー』と伸ばし声をお出しください」

「あー。えー。うー」



これで問題無しと言われれば、アリエスに頼ることなく自身の声で会話が出来るようになる。



「ロイ様。喋るには問題ない程度には回復しました。元々喉に負った傷は運良く大事な血管や声帯には届いていませんでしたし…」

「…なら喋れたんじゃないか?」

「ですが。その手前には傷を負っていましたので、喋り続けて傷の治りが遅れれば――」



私の言葉にアリエスは、傷を甘く見てはならないのだという話を長々としだした。

別に聞きたくなかったわけでもないから良かったのだが、急に語り出されると、『どのくらい喋り続けるつもりなんだ…?』と終わりがいつになるのかが気になってしまう。

そうすると語られる説明を理解するのに、いつもより時間を要るんだがな…


――ロシュは集中力が散漫になり、自身の脳の回転率が下がるのが気にくわないまま、アリエスの話を聞き続けた。




――数分後。




「――そして何より女性が傷跡を残すなどありえません」



アリエスから『分かりましたか?』と同意を求めるような視線に、私は肯定の言葉を発した。



「確かにここならボタンひとつ開けてしまえば見えるな」

「えぇ。ですので治りを早くするため、あえて重症なのだと言わせていただきました」

「…まさか脇腹の傷もか?」

「いえ。そちらは本当に重症です」

「そうか…」



過度な嘘は後に響く。



「ロイ様。今後の治療についてですが、回復促進薬の摂取と傷当ての張り替え、そして数週間の絶対安静――」

「その絶対安静も少し長めに伝えていやしないだろうな?」



そのため私はアリエスから伝えられていた、激しい運動をしてはならない『絶対安静』という言葉にすら、信用が無くなっていく。



「それはありません」

「はぁ。傷跡が残るのを推測して考えれば、何日で安静は解ける?」

「……1週間ほどです。ですが、傷が完全に塞がるまでは跡が残る事を考えても1ヶ月から最大で3ヶ月はかかると思われます」

「本当か?」

「はい。いくらロイ様の回復力が他者より高くともかかるものはかかります。バルナ様にも診断を頼んでもらっても構いません」



うむ…私の回復力を1番知っているアリエスとバルナからの診断を受けてでも同じ結果になると豪語するようなら、嘘もないな。


まぁ、私を心配しての嘘だったのなら、信用が落ちることはないがな。



「鍛練は怠るとその倍はしないと感覚は戻らなくなるな…」

「完治までは激しい運動はお控えください」



身体を動かし鍛えることができない日々がまだ続くのかと思うと、少し憂鬱になるなぁ……

まぁ、会話や読書は自身で出来るようになっているから、この憂鬱な気持ちもすぐに晴れるだろう。



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