281.人によっては恥ずかしさの極み
私の食事は粥仕立てなため、スプーンのみでの食事となった。
食感がないのが口寂しく、苦味のみの単調とした味も物足りなさがあるのだが、まぁ、この配膳も数日で終わるだろう。
……終わってくれるといいんだがな。
さて。
夕食は滞りなく食べ進められたのだが、何を面白がったのか隣にいたレイラが私からスプーンをそっと奪いとり、粥を掬うとそのまま私の口元に差し出してきた。
私はアリエスに目配せをすると、レイラに問うた。
「『レイラ?これはどういう意味だ?』」
何故途中で食事を止めてまで私の食事を補助するようなことをしたのか、という意味を込めて。
「風邪を引いた時、とうさまがやってくださった時がありましたわ。とうさまは滅多に風邪などひきませんから粥を食べている機会など無いのでは?と思ったの。私、結構恥ずかしかったのですよ?赤ちゃんや雛にご飯をあげるみたいにされて…ライラはそんなことされてもありがたかったっていうし…」
「それは風邪で気だるかったし、持つのも億劫だったからね」
私もライラと同じ理由で『持つのが億劫なら食べさせてやろう』と思い親心でやってあげたのだが、まさか恥ずかしかったなんて思いもしなかった。
使用人には『風邪が移るかもしれないので近づくな』と言われていたのを諭してまでやったのにな…うむ。反省だな。今後はやらないようにしよう。
「ああいうから私、とうさまも恥ずかしってわかってもらえないのかもと。そう思っていたらいま、とうさまにも同じことがしてあげられると思い、行動しましたわ。怪我人の補助なら、食事を中断しても何の文句もあまり言われませんでしょう?」
『さ。とうさまお口を開けてください』とニコニコとした表情で、粥の乗ったスプーンを口元に差し出してくるレイラ。
ちらりと使用人達とライラを見るが、助けてくれるような素振りは一切ない。
ライラはレイラの気持ちを汲んだろうが、使用人達は誰かにやられたことがあるため、自分もやられろと言いたいのか…。
私は、苦笑いを浮かべた後、大人しく数回だけレイラに食べさせてもらった。
…自ら食べさせてくれと言ってやられる時は恥ずかしさなんてなかったのだが、不意にやられるのでは恥ずかしさの度合いが違うのだと、学んだ。
それにレイラがとても楽しそうにしている姿をこうして間近で見れるのなら、まぁ、悪くはないかとも思えた。
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