279.彼女が思う前向きではないことは確か
8月ですね。
「怪我人を勝手に起き上がらせるなど…もしもロイ様の傷口が開いたらどうするおつもりだったのです?」
私を起き上がらせる瞬間を見ていたアリエスは、驚愕した顔をスッと真顔に戻し、食事をテーブルの上へと置いた。
そして私達の方へと近づくと、眉間にシワを寄せ、淡々とした怒りを露にした。アリエスの怒りは怒号でない所が怖いな。
――アリエスは叱りつつもロシュの傷口を見たりしている。
それからアリエスは、1人1人に何故やってはならないのか、何故手助けをよりも止めなかったのかを聞いては論破していく彼女に、ライラもレイラも落ち込んでいっていた。
アルタだけは反論しようとしたが、『いくら主人と仰ぐライラ様に言われたからといって、貴方を雇用しているのはロイ様です。そのロイ様に何かあった際それを手助けした貴方は、ライラ様より厳重な処分が下されるのですよ?雇用を切られたいですか?』と言われてしまっては、素直に謝り2度としないことを自ら誓っていた。
それほどまでにライラと離れたくないのだ。彼は。
――傷口が開いてないことを確認し終えたアリエスは、アルタが持ってきた枕を腰に当てるように置いた。
叱られた面々の中で、ジェミネだけが叱られることはなかった。
しかしそれはアリエスにはという意味である。
『ジェミネを叱る役目は別の人間に行わせます。反省してください。そして学んでください』とアリエスは言った。
ジェミナに対しては、メイドとして少し先輩でもあり姉であるジェミナに叱られる方が、心に響くだろうという考えを持ってのことだろう。
皆への叱咤が済んだアリエスは、じっと私を見つめて来た。
これは『ロイ様は何かいいたいことがありますか?』という意味だろうと思い、私はアリエスに
『ちゃんと止められなかった私の責任でもある。医学の事をより理解させるだけに止めてこれ以上は何も責めないでやってくれ』と。伝えた。
口の動きを読み私の言葉を知ったアリエス。
少し悩ましげにした後。再び私を見つめる彼女は発した。
「医学を学んでいただく中に、ロイ様も入っていただけるのでしたら、私はこれ以上何も言わず、責めもいたしません」
――アリエスの言った言葉には『ロイ様も傷というものを甘く見ているから止めなかったのでしょう?でしたら学んでいただけたらより傷を作らないようにしてくださるはず』という考えあったての言葉だった。
…つまりこれは私も知識不足だと言われているのだと悟ったが、素直に受け入れ頷いた。
不足しているのは確かだ。何せ『痛みくらい』『重症でないなら』と思っているのだからな。
――ロシュは、『怪我や傷を負わないように』という考えではなく、『傷を負ってもどれだけ動けるのか』という前向きにアリエスの言葉を受け入れ、彼女の考えとは違う意味で学ぶことにしたのであった。
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明日は日曜日なのでお休みです。
また月曜朝9時にお会いしましょう!