277.成し遂げさせるためには ★
部屋で食べるための準備が終わりしばらくして。
入浴と髪を乾かし終えたライラとレイラが部屋に戻ってきた。
「お待たせしました、とうさま」
「もう少ししたら、スロウさん達が料理を持ってきてくれるらしいよ」
待たせたというレイラに、スロウが料理を取りに行ったことを伝えてくれたライラ。
「…ところでとうさまは、椅子に座わっていいのかしら?」
用意されたテーブルの前の椅子に座ろうとしたレイラは、私を見つめそう問うて来た。
1人で起き上がれなくもないが、安静が1番らしいからな。レイラが疑問に思うのも分かる。
とりあえずアリエスが帰ってこないことには分からないため、今は首を軽く横に振り分からないと意思表明しておく。
「アリエスさんが来ないと分からないよ。彼女がとうさんの主治医だからね」
私の考えを読んだライラの言葉に、
「でもここで食べて良いのなら、とうさまも一緒に食べるってことよね?」
と、椅子とテーブルが自分達と私の分がある時点で、ここで食べられることを意味しているとだと返答した。
「確かに椅子は3脚あるからとうさんも食べるとは思うけど、勝手に起こしたり移動させたらダメだと思うよ。どう傷に響くか分からないし」
私が言葉にしたかった疑問点はライラが全て言ってくれた。
あのアリエスさえ触診の時に起き上がらせなかったのだ。無駄な体力を使わせたくなかったのやもしれない。
ここは彼女が帰ってくるのを待っている方が良いだろう、と私が考えていたのだが……
「……。なら椅子にさえ移動させなけば、やっても良いってことよね?」
「え?」
どうやらレイラは何かを自分の手で成し遂げたいらしい。
「ライラ、手伝って」
「何を…?」
「とうさまをベッドの端に座らせるのよ。柔らかいし、起き上がるのを頑張ってもらえば、椅子よりは移動しないわ。それにテーブルを寄せれば…ね?」
「確かにそれなら出来そうだけど……」
――レイラのしようとしていることを考え、導きだそうとしているライラは、出来そうではあるがと今だ賛同するまでには至っておらず、また明確な否定も出来ないでいる。
――2人が話し合いをしている中、私は考えていた。
正直、私とて痛みは感じる。
レイラの『私と食事を取るための工夫』を成し遂げるために痛みを怪我人に負わせるは、普通ならダメなことだ。
むしろ、悪化させる事もある。
だが、痛みで歪む表情を隠せる程度には我慢でき、『安静』とは言われたが『重症』とは言われなかった。
つまり多少の無理をしても傷が開き、悪化に繋がることはないということだとも、私は解釈した。
ならば1食分くらいは無理をしてでも、2人と共に食べる方を私は選ぶ。
例え数日後の方が、安心安全に食べられるのだとしてもな。
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