276.似てはいるが向上心が違う
入浴中の2人と共に夕食を取ることになった部屋では、続々とテーブルなどの必要家具が設置されていっていた。
「ロシュ様、バタバタしてすみません」
設置を先導していたスロウが、怪我人の側で誇りをたてるような行動をしたことに、申し訳なさを感じているようだった。
私はそんなことはないという意思を、首を振って答えた。言葉を代弁してくれていたアリエスは、いまこの場にはいない。
スロウによると、私用の夕食を自ら作っているのだという。
…治癒力を向上させる粥でも作っているのだろうな。
「アリエスは治療中に必要な栄養を取らせるための料理なら、一流ですからね…ですので、早く治して我々の料理を食べてください」
そう。
アリエスは茶葉と薬草を使わせたら一流だが、それ以外だと壊滅的とまではいかないが、何故この味が出来るのだ?疑うような味の食べ物を作り出していた。
あれは肉料理を作らせたときのこと。
彼女はスロウ指導のもと野菜を切り、肉を切り、香辛料を言われた通りに作り出したのにも関わらず、スゥーっとした青臭さのある味の肉料理ができた。
原因は、スロウが目を離した隙に使用した隠し味のハーブを際立たせようと、手心を加えたのがいけなかったらしい。
隠し味を隠さないという暴挙にでたあの料理は、本人以外大変食べたくない料理となってしまった。
しかしそれを踏まえて反省したアリエスは、『料理をやらない』というのではなく、『自分に扱える食材を使い、それに特化した料理だけを作れるようになる』という考えに至った。
主に私の作った料理の感想をスロウから聞いたため、『もしもロイ様と野宿することになった際、私が少しでも作れれば飢えはしないはず!』と意気込んだらしい。
結果としてそれは功をそうし、薬草を使う分には料理上手と呼べるようになった。
が。
偏った腕前は、時に『味』ではなく『栄養素』を優先させることにも繋がってしまったの、だ。
そうするとどうなるか。
見た目はどんよりとした緑、味は苦くその中に甘味や塩味をほのかに感じる料理が完成するのだ。
あれを食べれば、確かに体調も傷の治りも普通よりは早くなっているなと体感するのだが、その後数時間は味覚に全て『苦味』を感じることにもなる。
アリエスに触診させ確認したが、『味覚事態に問題はない』とのこと。
食べた本人的には問題があったようにしかおもえんのだがな…。
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『43.不思議』などにて、アリエスが料理をするようなシーンが見受けられますが、味の下拵えは全て別の者の手によってされています。
又、アリエスの作る料理で薬の元となる材料を使用してぃますが、『薬膳』ではなく『薬草料理又は緑料理、回復料理』と呼ばれています。
ロシュは基本的には回復料理と呼ぶこともあります。