267.油断
男を縛るため躊躇なくシーツを破くレオ、そして手際よくみるみるうちに男がミノムシのようになっていった。
「レオが入ってきたことを気づかない時点で三流だ。自分が一流だとでも思っていたのか?」
「嘘だ…ここまで入ってこれたんだぞ!?三流では無理なことだろ?!」
男は私が言ったことに対して『自分だから入ってこれた』と言いたいようだ。
だが確かにレオが私の部屋の前からいないのは、職務放棄だ。
うむ。レオが何故そんなことを……いや前にもあったな。
「偶然が重なって入ってこれただけだ」
「偶然だと?」
「あぁ。
まず部屋の鍵を閉め忘れ眠ろうとした私と、私が明かりを消したのをドア下の小窓からレオが、尿意に負けてすぐにその場を離れたこと。
そしてそこにお前が侵入してきた、というわけだ」
レオが警備場から離れるのは、生理現象しかないからな。
「いつもならドア閉まってること確認するけど、尿意に負けた。ごめんなさい、ロイ様」
「誰にでも失態はある。今回は私もレオも悪い」
「うん」
「さて。ではこいつからできるだけ情報を得るとしよう」
いくら自宅とはいえ、警備を疎かにしてはダメだな……。
外観が怖くなってしまうが、やはり全ての窓に鉄格子を付けた方が良さそうだ。
良くも悪くも口に言葉を出しやすい男だ。
精神攻撃ですぐに動機からなにから全て話してくれるだろう。
私が捕まえた男から情報を得ようとしたその時、
「捕まったままでいると思うな!」
と、叫んだ。
さらに『風よ!吹き荒れろ!』という言葉を叫ぶと、男を中心に部屋の中にも関わらず、嵐のごとく風が吹き荒れた。
男の近くにいたレオは吹き飛ばされるが、受け身をとり、男の方へと対面するように身を翻した。
「大丈夫か!レオ!」
「うん」
風で瞳が乾燥し長く目をあけていられず、風で男にも近寄れない状況となった。
油断していた。
拘束されていたのにも関わらず、男が反撃するとは思っても見なかった。それも、魔法』を使って。
いくら私でも、荒れる自然の力を想定した訓練はしていない。
が。
魔法の知識はランス達にも教えてもらったから心得てはいる。
同じ魔法を長時間使える者は大量に魔力を保持している。
しかし目の前で魔法を使い続けている男は数秒毎に『風よ!吹き荒れろ!』と唱えており、息切れもしている。
つまり、魔法使用の限界が近いということだ。
ならばこちらがすることは、男の行動・言動に注意しているだげでいい。
言葉にした現象が魔法となるらしいからな。
自分が逃げるためではなく、魔法で私の命を取る現象を発動しておけば、暗殺者としては勝機があっ――
「くそっ!ならお前だけでも!!」
――男は魔法を使用したのにも関わらず、シーツで縛られた体から片手だけしか抜け出せなかった。
相当きつく縛られ、さらに自分の魔力の限界を悟り、せめて暗殺者として標的だけでもと、男の行動に対して考察を考えていたロシュへ風の刃を放った。
「!!」
――風が止んだ一瞬に『危機』を感じ、身を屈めレオのいる方へと転がるように移動をした。
他の事を考えていたとはいえ、驚異的な反射神経で目の前に迫っていた風の刃はなんとかかわせたロシュ。
「ぐっ!」
――しかし風の刃はロシュのいる方向へと乱雑に猛威を振るっていた。
――結果。
――ロシュの右腕と脇腹に剣で抉り斬られた傷が出来、じわりと血液が体外へと流れはじめていった。
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