263.伝え忘れの言い訳
ケーキを食べ終えた私を待っていたアリエスは、早速ゼイラルの手紙への忠告をしてきた。
「いいですか。街でのお茶への誘いはお断りしてください」
ソファーに座っている私と側に立ち私を見つめる瞳を見た。
横から無表情に見下ろされるこの感覚は、精神的によろしくないなと思い、テーブルのある場所から机へと戻り、椅子に腰掛け直した。
アリエスもついてくると机の正面へと陣取った。横からより正面の方がまだマシだな。
「…理由は?」
「まず、ゼイラル・ムーロンがいる街は、他人の目があります。よくロイ様もご利用されますので」
「街だからな。誰かの視線を集めるのは仕方がないだろう」
私の顔見知りが多いから人目を避けろとも言いたいのだと分かった上で、仕方ないと返した。
「ロイ様。彼とはまだ恋人でもなければご友人でもなく、また交渉をする相手でもありません」
あ。
…アリエスのその言葉に私は心の中で若干の焦りを覚えつつ、それでも表情と声は淡々として見せ返答した。
培われた社交性は伊達じゃないぞ。
「友ではあるぞ」
「え?」
唖然とした表情を見せたアリエスは、私に続きを求めるように見つめてきた。
「皆には見せられない手紙やりとりの中で、ゼイラルが知人かは友人へと昇格したんだ」
「……そのような話は一切聞いておりませんでした。ご友人となられたのならば、ご報告をいただかなければ我々はゼイラル・ムーロンを『知人』扱いのままにしておくところでした。後程我々で共有してもよろしいですか?」
まぁ、誰も知らないことだからな。
「あぁ、共有して大丈夫だ」
「ではご報告をいただけなかった理由を聞いてもよろしいですか?」
心の中でギクリとした緊張の中で、アリエスに見繕う言葉をかける。
嘘は良くないが、いまはつかなければゼイラルがあまり広めてほしくない個人的な話が書いてある手紙を読ませろと、言われかねないのだ。
すまないな。
私は自分に呆れたような声を出しつつ、言葉を発した。
「アリエスにも皆にも言ったものだと思っていた」
「そうだったのですね」
「あぁ」
ゼイラルに会った時、見せてない手紙を他の使用人らに見せて良いか聞いてみるか。
――ロシュはアリエスの信じた表情を見て、申し訳なさを感じたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
明日は土曜日ですのでお休みとなります。
また月曜朝9時にお会いしましょう!