262.合間の話は甘味かな
――コンコン。
――いつもより少し低い音のノック音がロシュとレオの耳に届いた。
「レオ。手が塞がっているのでかけてください」
アリエスの話をしていたタイミングで本人が執務室のドアをノックし、レオへドアを開けるように頼んできた。
私とレオは視線を交わし、苦笑いをした。『アリエスに聞かれなくて良かったな』と。
「行ってやれ」
「うん」
レオがドアを開けに行き開けると、トレイに飲み物以外を乗せたアリエスが、机の前にあるテーブルにトレイを置いた。
バランスが悪そうなのに良く溢さなかったな。
「お待たせしました、ロイ様」
「甘味があるならワゴンに乗せてくれば良かっただろう」
私はそう言いつつ、机からテーブルの側にあるソファーへと腰かけに向かった。
「私もそうしたかったのですが、ワゴンの車輪が壊れていると言われたので、持ってこれる程の重さでしたので」
私が座るのと同時に目の前に出された、甘味と今ティーポットから注いだ飲み物の紅茶。
「『ドアはレオに開けてもらえば良いだけ』と、思ったのか」
「はい。こちらはブルーベリーとイチゴを使った2種のケーキだそうです。紅茶もそれに合うものをご用意しました」
肯定の言葉を発したアリエスは、甘味のケーキの説明をした。
私に思考を読まれるのには慣れているからな。会話を長引かせる必要はないと思ったのだろう。
なら私も話を変えるとしよう。
「これはサヤンキ作か?」
「その通りです」
「どうして分かったの?」
正解だというアリエス。
そして何故分かったのかと言うレオに、私はすぐさま返答した。
「スロウなら自分で持ってくるからな」
「なるほど」
「…ロイ様。こちらが今回の手紙でよろしいですか?」
「あぁ。秘密にしてほしいことは何も書かれていなかった」
納得しているレオに構わず、机の上に置きっぱなしになっていたゼイラルの手紙を手に取ったアリエスに、見ても良いと告げた。
「では拝見させていただきます」
「あぁ」
「俺は資料整理に戻るね」
「助かる」
レオはもう自分の出る幕はないと、隣の部屋にある資料室へと去っていった。
さて。
私がケーキに舌鼓している間に、手紙を読んでいるアリエスの表情を盗み見たが、眉間に皺を寄せ怒っているような表情となっていた。
はぁ…。
あの手紙の中に怒りを感じる文面など普通はないのだが、アリエスにはあるのだと思考した。
『予定が合えばですが、街でお茶でもしませんか?』の部分が怒りに触れるなと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アリエスはドアを足先でノックしました。
普通はマナーの悪いことですが、効率性を考え、『グランツェッタ家とその使用人以外が周りにいないのならば』
という条件下で、足先でのノックが許可されています。
なお、グランツェッタ家以外でこれをやっている者はあまり貴族にはおりません。