250.迅速に伝わった
ゼイラルからの決意表明はアリエス・レオ経由で、その日の内に使用人全てに伝わった。
中でもひときわ喜んだのはクエリアだ。
この手の話…つまり恋愛・婚約などの話題となると、彼女はいつも以上にニコニコと私に話しかけてくる。
今晩の食後も予想通り話しかけてきた。
「ロシュ様ロシュ様~!聞きましたよ~!ふふふ~ようやくロシュ様にも春がくるんですねぇ~!」
「私とゼイラルはまだ『恋愛』には至っていない」
『春がくる』とは何かを始める、始まるという言葉。
クエリアが言いたかったのは『恋が芽生えたんですね』だ。……こういうのが毎回あれば、嫌でも細かなニュアンスでも意味が伝わってくる。
「でもうまく行けば恋愛して結婚するんですよね~!」
「うまく行けばな」
「ゼイラル君はいい子そうでしたからきっとうまくいきますよ~そ、れ、で。ロシュ様~?」
「…なんだ」
クエリアは両手で私の左手を取ると、じっと私を見つめてくる。その瞳からは、期待と渇望が入り交じっているかのようだ。
まさにそうなのだろうが。
「結婚式の衣装は私に作らせてもらえるんですよね~?」
結婚式の衣装とはもちろんあの新郎新婦が着るやつだ。
彼女は自分の結婚式でのドレスを母であるバルナに作ってもらってから、自分でも作りたいと願っていた。
ここ最近だとシリウスとメダが結婚したが、2人はシリウスの母親の故郷の衣装を見に纏って式を挙げたため、ドレスは作ることはできなかった。そのため誰かの結婚式予定である『好きな人』『恋人』『婚約者』ができようものならすぐこうなる。
バルナやスロウからは『急かすな、やめろ』と言った類いの言葉を投げ掛けられているが改善の見込みなし。
…まぁ、私としても迫って願うのはやめてほしいが、作ってくれる分にはありがたいと思っている。
「前にも言ったが、もしその時が来たら衣装から小物まで全てクエリアに任せると言ったはずだ」
「でも相手との衣装の色合いもありますから~確かゼイラル君は青髪でしたよね~」
「それ以上の想像は決まってからにしてくれ。前みたいに作るのなら頼むのをやめるぞ?」
『次に迫られたら、作らせないと言ってもらって構いません』とバルナから言われていたので、言わせてもらった。
相当やめて欲しいという言葉が出ていたようだ。
「……決まったらすぐに教えてくださいね~」
「あぁ」
「では失礼いたします~」
その言葉を聞いたクエリアはあっさりとしかし悲しそうに去っていった。
その様子にダイニングに残っていたこども達も、私と一緒に苦笑いをした。
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