249.見たい者
ゼイラルが乗ってきた馬車へと向かい、この場からいなくなると、これまで沈黙を保っていたアリエスへと話しかけた。
「アリエス」
「何でしょうか。ロイ様」
「ゼイラルからきた手紙を後で読もうとはするなよ?」
「何故でしょう?」
いつも以上に淡々とした喋り方で答えるアリエス。
異性交流となると彼女は相手を警戒し、近づけさせようとはしない。
今回は私がゼイラルと受け答えをした結果、交流することになったため、ダメだと途中で言えなかったのだろう。
だが、手紙のやりとりは何かしらの訳をつけて勝手に見る可能性がある。
領主ロイヴァルッシュにではなく、個人ロイヴァルッシュに手紙がくるのだ。勝手に見たとしても『不審なもの』と言われ終わる。その前に釘を打とうとした。
「これは私と彼の個人的な――」
「失礼ながら。
もし、ゼイラル・ムーロンさんがロイ様の伴侶となられた場合。引いてはこのグランツェッタ領領主の夫となるのです。
性格や言動に難があっては、ロイ様やレイラ様、ライラ様にまで悲壮の印象をつけられてしまいます。可哀想や見る目がなかったなど他の貴族様方の格好の餌となるでしょう。
ただでさえ我々のような使用人をお持ちなのです。餌は与えぬ方がより書類作成も捗ることでしょう。そのためには、少しでもこちらにもどのような人物なのかをご提示いただきたく、お手紙の拝見の許可をお願い申し上げます。ロイ様」
矢継ぎ早に私の心配と願いを言ってのけたアリエス。
私だけの心配をするのならば、そんなことはないと突っぱねられたのだ。
しかし、アリエスはこども達や領、それに敵対とまではいかない貴族達からの陰湿な言葉遊びをされると言われてしまっては…
「…分かった。だが手紙に例えどんなことが書かれていようとも損失するようなことはするな。それと、もし手紙に『ここだけの話』という言葉が書かれていたなら見せることはできない。それでいいな?」
ゼイラルからの手紙にも守秘はあるからな。
「ご検討くださり、ありがとうございます。おっしゃられた内容で納得いたします」
「俺も」
黙って聞いていたレオまでもが賛同し納得しているという。彼もまた内容が気になるようだ。
「…はぁ。ゼイラルから来るであろう見たいと思う者には、今の会話を正確に伝えろ。それと。執務室内で私がいる時に見てくれ」
「かしこまりました」
「了解しました」
全員に見られることになるとは思うが、私の見てない所でこそこそと見られるよりは、執務室で表情や感想を見聞きできた方が、ゼイラルの印象が良いのか悪いのか分かる。
第三者から見ても良い相性という評価は、今の私には必要だ。……人数が多すぎるのは逆に不安になるがな。
「レオ。続きをやるぞ」
「わかった」
まずは心を平常に戻すため、打ち稽古にて楽しいと戦略以外を心頭滅却だ。
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明日は4のつく日ですのでお休みとなります。
また木曜朝9時にお会い