240.奉公人
本格的に梅雨入りですかね
不味く感じたために咳き込んだ息づかいがようやく収まったミナージュは、『これが洗礼茶ですね!本当に飲めて嬉しいですっ』と私に感謝してきた。
これまで不味く感じる茶を出して、怒りやそれを取り繕うための苦笑いなどは見てきたが、こうも嬉しそうにされたことはなかった。
「嬉しいそうだぞ、アリエス。淹れたかいがあるな」
「はい」
いつも最初は不味い反応しかもらえなかったしな…まぁ、そういう風に開発されてしまった茶だ。出す者よって反応が変わるのは仕方がない。
洗礼茶か…
――ロシュは心の中で思った。自分が考えていた茶の名前より良い呼び名だと。
「砂糖を入れれば美味くなるぞ」
「はいっ」
ミナージュは私に言われた通りに角砂糖を入れ、飲んだ。先程とは違い、嬉しさの中に驚きのある表情だ。
『こっちの味も飲めて嬉しい』とでも考えているのだろう
「さて。そろそろ話をしようか」
「は、はい」
「ミナージュ。君が1人でここに来たということは、ご両親の説得ができたと思っていいんだな?」
「はい。私の今までの想いを全て打ち明けてきました。最初は驚いて窘めようとしてきましたが、全てを聞き終わる頃には納得してくれていました」
「私に対しての伝言はあるか?」
「『娘を宜しくお願い致します』と。それと手紙も」
ショルダーバックから3通の手紙を出し、テーブルの上へスッと出してきた。
中央に置かれた手紙を引き寄せ、手に取ると風を開け速読をした。
――数分後。
「うむ。ミナージュはここになんと書かれているか知っているか?」
「いえ…ただ、知りたいのなら教えてもらえと言われています」
「知りたいか?」
「教えていただけるのでしたらお願いいたします」
「簡潔にいうとミナージュを籍から抜く気はないため、扱いは『奉公人』としてほしい。年に1度は帰ってこさせてほしいとのことだ」
「奉公人…」
通常使用人になるのは爵位を持たない者。しかし稀に爵位を持ったまま使用人となることがある(騎士を除く)。
使用人となれば家族よりも優先させるのが常識だが、爵位を持ったままだと『奉公人』という通いの仕事という扱いになる。
家庭の事情で帰りたいと主人に申し入れれば、余程の事がない限り承認される。
奉公人として出す理由は、ほぼ貴族としてのマナーが早く身に付くからだが、この手紙を読むに『娘と縁を切りたくはない』と言いたいようだ。
この言葉を聞いたミナージュも私の言った言葉を真の意味で理解しているのだろう。照れ臭そうな、呆れたような顔をしていた。
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奉公人という意味合いもまたこの小説内でのみの解釈と使用になります。本来の意味合いとはずれがありますのでご了承下さい。