234.自覚した者、そうでない者
書類の作成もあるため、2日後改めてこちらに赴くことを伝え、娘達にもきちんと話を分からせておくように告げると、私達は帰るために部屋の外へと出た。
夫人はまだ完全には飲み込めていないようで、見送りはしないよだが、プリリル公爵は馬車前までお見送りするという。
さすがに断りたかったが早く立ち去りたい。
結果、話を短くするため断ることはせず、プリリル公爵は自ら先導にたった。
本来なら並んで歩くか前後くらいの近い距離にいるのが貴族だが、それすらしなくなったのは、自身の未来が決定したからだろうか。
「あら?お父様?…とグランツェッタ公爵じゃありせんか」
廊下の角に差し掛かろうとしていた我々の前に、その廊下の角先から曲がってきたプリリル夫妻の長女、ネネマが現れた。
「ネネマ。グランツェッタ公爵はお帰りだ。道を開けなさい」
プリリル公爵は淡々と、すぐに道を開けるようにネネマへと促した。
「少しくらいお話を…と思いましたけれど、グランツェッタ公爵はこんな匂いのする家にはいたくありませんわよね。はぁ、お鼻が馬鹿な我が家の人間からしたら良い香りなのですけれどね…失礼しました」
そんな父の様子にいつもならお喋りでもと言ってくるネネマも、一方的に言葉を投げかけ、そして廊下の壁際へとはけた。
通りすぎて目的地に向かえば良いのにな。
「すまないな、ネネマ」
ネネマは私と同い年の女性だが、良い顔の男好きでお金が好きな人物だ。
彼女が先程の話を聞いたならどんな反応をするのだろう。
このプリリル家で唯一、常人として目覚めた彼女には苦手意識はなかったからこそ、これからの事を思うと少しだけだが、哀れに思ってしまう。
彼女が常人として目覚めたのは、レオが貴族と知らぬままネネマと話し込み、全ての事実を――つまり香水がきつくて側に居られたものじゃないと――伝えたからだ、と本人から聞かされた。
その時は謝罪をし、何が詫びの品でもと言った際、彼女は『我が家がどう見られているか、嘘偽りなく話して。それがわびの品とするから』と今より随分高圧的に聞かれたものだ。
それが両親にも伝われば良かったのだがな…
ネネマと別れ、我が家の馬車まで到着し、乗り込むと小窓からプリリル公爵を見た。
彼は使用人のように頭を下げていた。
「とうさん…」
「あぁ」
私はライラに促され、馬の方に面している壁をノックし、御者のアリエスに発進の合図をした。
帰れることに嬉しくもあるが、父や祖父の代から仕事を共にしてきた公爵がいなくなる空しさを感じたのだった。
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