223.見習い庭師は
話し合いが終わった私は、騎士寮へと向かいレオやベガに剣術の相手をしてもらった。
執務室に籠ってばかりでは体が鈍ってしまうからな。
昼食後は時折こうして身体を動かすことにした。いや、前より動かすことにしただけで、昼食後の運動は前からしていたな。
今回は真剣での打ち稽古。気を抜けば怪我をしてもおかしくはないため、レオもベガも本気で受身を取ってくれている。
2対1だが、これは複数戦を想定したもののため別に不都合はない。
「ふっ」
「っ!」
「…!」
私の振り払うような剣撃を受け流すベガと、その剣擊を弾きベガから話すレオ。
なるほど、仲間を庇いつつ反撃する敵か。いなくはないな。面白い。
楽しくなってきたな――
「あ、ロシュ様~」
――そう思った矢先。
2人から間合いをとっていた私を呼ぶ声がした。
「…ふぅ。休憩だな」
「そうですね」
「飲み物取ってくる」
「あぁ」
私はレオとベガに休憩を告げると、了承した2人はそれぞれの反応と行動をした。
騎士寮の中へと戻っていくレオとすれ違うようにこちらへ向かって来るのは、王都で別れたクエリアだった。
「ただいま王都より帰還しました~」
「あぁ、お帰り」
「おみあげはアリエスに渡してありますので、後で拝見してください~」
「…あぁ、分かった」
『拝見』と言ったクエリアの言葉に気を引き締めた。十中八九、王太子からの手紙だろうな。
アリエスに渡したということは執務室にでも置いてくれているだろう
「それとミナージュちゃんから言伝で、入領は遅れるそうです~」
「理由は聞いているか?」
「はい~何でもミナージュちゃん自身でご両親が説得できそうだからと~」
「なるほど」
娘の言葉を聞き入れるだけの意思があの両親にはあったのか。
「それでは私はこれで失礼します~」
「あぁ、早くプロキノに会ってやれ。寂しがっているぞ」
プロキノはクエリアの子供で、庭師見習いをしておりスピオンの手伝いをよくしており、その上覚えもよく、齢10歳にしては働き者でしっかりしているし、何よりライラやレイラとはまた違った可愛さがある。
最近は、少し前に生まれたメダとシリウスの子供の面倒も見てくれており、庭師より使用人になった方が向いているのではと思う。
しかし本人は庭師にしかなりたくないと言っているため、お願いをしてたまに使用人の真似事をしてもらっている。
「ふふ~働き者でもまだまだ子供ですからねぇ~」
用事を終えたクエリアは私の言った通り、プロキノの元へ向かったのだろう。
私ももう少し打ち稽古をやってから執務室に向かうとしよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
クエリア・ベンジャミンは21歳の時にプロキノ出産。
産休ののちすぐにメイドとして復帰をし、世話は夫へ任せたため、プロキノの性格は彼に似た。
しかし、姿や喋り方、雰囲気はクエリアの性質を受け継いでおり、彼女の子でもあることを証明している。
ロイヴァルッシュのことはロシュ様と呼んでいるが、2人きりになるとロシュと呼び捨てとなる様子。
クエリアとの関係は良好であるが、溺愛しすぎてプロキノからは若干嫌われつつある。
しかし溺愛の愛情表現の行動をしなければ、よき母として扱われている。