221.使者
翌日の朝食後。
いつも通り仕事に勤しんでいると、ふと視線を机の書類から正面へと向けると、驚いた様子のアリエスが立っていた。
私も少なからず驚いた。
「いつからいた?」
「たったの今、参りました。ちょうどお顔をあげてくださり、ロイ様のお仕事の邪魔をせず、すみました」
偶然で起こった驚きだったか。不穏でない気配はなかなか察知出来ないものだな。
「そうか。なにか急用か?」
「はい。プリリル公爵家から使者が来られています」
使者が…?昨日の今日だぞ?
「…何の用件かは聞いたか?」
「昨日、お話しされた『後日』を決めに来たとのことです」
「手紙で良いものを…はぁ。また応接室か?」
「はい。お飲み物を出し待ってもらっています」
となると昨日と同じ流れになるか。
「昨日の香はまだあるか?」
「スピオンさんが余分に置いていかれましたので」
「なら使者が帰ったら昨日と同じようにしてくれ」
「はい」
私は椅子から立ち上がり、応接室へと向かった。
使者だからか、プリリル公爵よりは足取りは軽かるかった。
プリリル家から来た使者は、やはりあの香水の匂いを漂わせていた。
彼が緊張してるのが分かるし、こちらも早急に帰ってもらいたく話を簡潔に進めた。
話し合いは使者をこちらのペースに乗せたまま、トントン拍子に進ませることができ、プリリル家へと向かう日取りが明後日に決まった。
これがプリリル公爵本人ならばズルズルと話が長くなったり、最悪『泊まりで今日からライラだけでも』と言いかねない。
話が纏まると決まった話の内容を、アリエスに持ってこさせて紙に書き出していくと、使者へとも持たせ帰ってもらった。
レオは馬車までの見送りをしに行ってくれた。
話し合いにかかった時間は約10分。本当に早く終わった。
使者が去った部屋に残った私とアリエス。
「昨日よりは匂いがついてないな」
「はい。ですがついてしまっているのにはかわりがありませんので、香を炊いておきます。ロイ様はお仕事に戻っていただいて構いません」
「そうさせてもらう。今の話はライラの専属達に話しておいてくれ」
執務室へと帰った私はそのままやりかけの仕事を片付けいった。
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――不穏な気配。
殺気・嫉妬・疑心・監視などが含まれる気配のこと。
(この小説内で)