212.事前にあった知識
私はプリリル公爵のナチュラルな嫌みを軽く流しつつ、ライラとの面会について話すことにした。
「娘さんのことを思う気持ちはわかりましたが、こちらにも予定があります。例え親しい間柄でも突然訪問するのは非常識としか言えません。が、思いは汲み取らせていただきますので、後日、改めてライラとの婚約について話し合いましょう」
「ですがここまで来たのです。夕飯時になればライラくんも帰ってくるでしょう?それまで待たせていただきたい」
あー言えばこういう……だが、今の言葉には隙もある。
「それはライラに一目会えば、後日の話し合いにするということですか?」
「えぇ」
「そうですか。ではここで暫しお待ちを。ライラが来ましたらここへ連れてきますので。それまではこちらの用意した甘味でもご堪能ください」
一目会わせれば帰ってくれるというのなら、ライラも手伝ってくれるだろう。
この2人に長居されて良いという者はこの屋敷にはいない。
「ありがとうございます。ユユモ~ライラくんがここに来るまで待ってような~」
「うん!お利口で待ってるわ!ライラ様のためですもの!」
「では私は少し席を外します。何かありましたら部屋の外にいる騎士にどうぞお申し付けください」
「わかりました」
応接室から出た私は、外で待機していたアリエスを引き連れて2階に向かい始めた。
レオは私の側にいるより、プリリル公爵らの近くにいた方が守れるということで扉前にサジリウスと共に残った。
バルナも待機していたが、スロウ達に客人への甘味を提供するように伝えにいってもらった。
「ライラ様に会わせるのですか?」
「会わせたらすぐにかえってもらい、話す時間をあまり与えないようにする。服を作るためとでも言ってな」
「帰ってもらう理由としては弱いのでは?」
「時間がかかることはプリリル公爵は理解している。奥さんと子供によく服を作らせてるからな。採寸からだとでも言えば帰ってくれるだろう」
2階に向かっていることから、ライラと会わせるのだと理解したアリエスがしてきた質問に、歩きつつ答えた。
「それこそ後日と言われるのでは?客である自分達がいるのだからと」
「『一目会えば帰る』というのに頷いた。1度目の突然訪問に、2度目のライラに会うまで帰らないという自分勝手で失礼な事が続いているのだ。あの人もこれ以上は我を通すことはないだろう」
「そういうものですか」
「あぁ。父が残した日記にもそう書かれていた」
「そうなのですね」
父の日記は書庫の板の裏に隠されるようにしてあった。
私がそれを知っていたのは、たまたま夜に忍んで書庫にある本を読み漁っていたら、父がその場所から日記の書を取り出していたからだ。
どんなことを書いているかは、その場で気になり本人に聞いたため、気にすることはなかった。
だが、父が残していった物だ…読みたくなったのは必然だろう。
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日記――△.◯.晴れ
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――プリリル公爵は大体、2つから3つ程の我を通すとそれ以降は堅実な貴族のようになるけれど、我を通されるこちらからすると『公爵だからこれくらいの願いを聞き入れるだけの広い心を持っているだろう?』と言われているようだ。
それに核となる経営や資源に関する願いがないのがまた断りづらい……
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