211.ナチュラルに
応接室に到着すると私は鼻を摘まみたくなった。
プリリル公爵が愛用している香水の匂いが部屋中に充満していたからだ。
私は顔を顰めぬよう表情に気を付けながら、匂いの発生源である人物、達に目の所へと歩みを進めた。
「お待たせしましてしまいすみません、プリリル公爵」
「いえいえ!こちらが突然来てしまったのですから待つくらいはしますよ」
待たせてしまったことへの謝罪はしたが、プリリル公爵がいうように待つくらいは許されて当然だと、心の中で悪態をついた。
「そういっていただけるとありがたいです」
このままプリリル公爵と話し合い――と思った矢先。
「――ねぇ!ライラ様は!わたし、ライラ様に会いに来たの!この前帰っちゃってちゃんとお話しできなかったから!」
プリリル公爵の隣に座っていたピンクのドレスに身を包んだ女の子――ユユモがライラに会いたいと、可愛いげにおねだりしてくる。
・・・私のような者じゃなかったら、少しくらいなら会わせてやるかと思うのだろうが、なぁ……
「すみません、ライラはいまここにはいないんです」
家にいないとは私は言っていないので、もしライラが家にいるとバレても問題はない。
「それじゃあ、来るまで私待つ!ここ、ライラ様の家だからずっといればライラ様に会えるよね!お父様!」
「と、娘が聞かなくてですねぇ。一目だけでも会えば満足すると思うんですよ」
「満足すると。プリリル公爵は娘の満足のためだけに、グランツェッタ家へなんの事前連絡もなく訪問されて来たと?」
「えぇ。娘の願いは出来うる限り叶えてやりたいと思うのが親心というものですよ。グランツェッタ公爵」
『親心というもの』
私への嫌みを込めた言葉だ。
我が家に出向いただけでなく挑発するとは……と思うが、思っていたことを意識せずに言ってきてきているため、強く出れない。
これが『お前を侮ってるんだぜ?』と、心の中でニヤついているようなやつだったら早々に関わりを絶つが、プリリル公爵は『金と家族が好き』で『ナチュラル嫌みを言う』『香水がキツい』だけの公爵なのだ。
仕事も抜かりなく行っている。
公私混同していいのなら、プリリル公爵を早くこの領地から別の領地へと移転を勧めるのにな……
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