206.鈍ったらしい勘覚
打ち稽古は勝敗を決めるものへと発展したが、結果はギリギリ私の敗けであった。
さすがに何日も素振りしなかった期間や馬車に乗り続けた結果、少し勘が鈍ったようだと、イブランから指摘を受けた。
はぁ、これだから王都に行きたくなくなるのだ。
私も生物学的には女だ。
幾日も鍛練を怠れば、筋肉質は脂肪質な物へと変化する。
まぁ、たかだか数日なら少しで済むが、王都にいると騎士団にでも行かない限り、素振りなど心置きなくできないだろう。
過去に客室内で素振りをしていたら、同行していたバルナにこっぴどく怒られて以来、全ての使用人に『ロシュ様が室内での素振りをしないように注意をはらうように』という指示をしたらしかった。
そのため、今まで黙認していた騎士ら『やめてください』というようになった。
私はそれから王都にいる間は、場所と時間がないのならばしないと決めた。
だから勘鈍ったと言われたら、やはりかと落ち込むだけになった。
昔はできなかった不満を過剰な打ち稽古で発散していたが、冷静になった時、自分へ落胆したりした。
それなら目の前のことだけに専念しよう。
あと、何かアイデアが閃いたら領地の事に役立てよう。と思うようになっていた。
「これから朝食で?」
「あぁ。イブランもだろう?」
「はい。食べたあとは王都組の鍛え直しでもしますよ。ロシュが勘を鈍らせていたならあいつらも鈍っていてもおかしくないですからね」
ほう。鍛練か。
「私も参加させてもらおうかな」
「参加したいので?」
イブランは私の言葉に訝しげにした。
「勿論、バルナの許可が取れたらな」
私の身体を気遣ってくれているから許可を出さない…というのはバルナの建前で、剣術よりも作法系をやらせようとしているため、快く承諾をもらった試しがない。
だったら勝手に鍛練に参加すれば良いのだが、そのあと私に対してかける言葉の端々がチクチクとしているのがなかなかに居心地が悪い。
『やめてくれ』といっても『なんのことですか?』と平然と言われてはこちらも強く怒れない。
まぁ、今は勝手に参加しなければ、しぶしぶ承諾してくれるからマシになったがな。
こういった理由を知っていたからイブランは訝しげにしたのだろう。
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――勘覚。(かんかく)
気配・第六感など、戦う際に感じることの総称。
(この小説内での創作言語・創作説明です?)