199.経験値
王都を出て最初の休息地点で、アリエスによるザンクへの馬車酔い確認と触診がされた。
今はなんともなくとも、のちのち悪化するという場合もある。
その状態で、最高速度で移動し続ける馬車に乗せる、ということはしたくない。
「で。ザンクの結果は?」
「今の所は問題ありません。ですが、気分が高揚して気付いていないということもあり得ます」
「気分が高揚?」
私は視線の先にいたオリオンに絡まれているザンクを見つつ、アリエスに疑問を問うた。
「彼によると『馬車がこんなに早く動いているのに乗ったことがない。景色が瞬く間に変わる様子は見ていて楽しいです』だそうです」
「なるほどな」
「ですが、楽しいという感情が疲れた、眠いなどになったときが馬車酔いの影響を1番受けます」
「そこで初めて強いか弱いかが分かるな」
「はい」
「まぁ、もし酔うようならまた改善を頼む」
「はい」
休息を終えると、宿のある街まで馬車を走らせた。
帰りの馬車はアリエスと2人だったため、話すことは自ずと領地改善話や使用人の仕事改善の話で持ちきりになった。
「――それでザンクとミナージュの部屋はメイド寮と執事寮に住まわせようと思っている」
「部屋数には問題ありませんのでそれで大丈夫です」
「それぞれの指導はバルナとサジリウスに任せる。帰還次第2人に報告をしてくれ」
「かしこまりました」
「それと2人の埋め合わせはクエリアとデネヴィーに任せる」
「…はい」
メイド長であるバルナの代わりを担いたかったであろうアリエスは、一瞬苦い顔をした。
「アリエス。別にお前に長が務まらないわけではない。メイドと執事として働いている長さで選んだに過ぎない。能力的にはクエリアにもバルナにすら劣っていないぞ」
「慰めていただきありがとうございます。これからも精進させていただきます」
「あぁ」
それから私はガタガタと揺れる馬車の中で少し仮眠を取らせてもらった。
アリエスからは寝る前、『よくこの揺れて眠れますね……仮眠ですので一定時間が経過しましたら強制的に起こさせていただきます』と言われた。
身体を痛めないようにだろうな…。
そんなことを考えつつ、揺れる感覚に身を任せ、眠りについた。
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明日の9時の投稿より、タイトルが変更されます。
現在(2020/4/21)までのタイトル『領地から離れる気はない(仮)』はあらすじに移動し、残します。
今後ともよろしくお願いいたします。