19.爵位の呼び名
それから少しの間。
その場で休んでいると、周辺の警戒をしていたベガが私達に駆け寄ってくる。
「ロイ様っ!前方より騎馬隊と旗を確認しました、王国騎士団ですっ」
「分かった。レイラ、馬車に戻っていなさい。アリエス、ジェミネちゃんは片付けを」
レイラは頷くと1人馬車の中へ戻っていき、2人のメイドは急ぎもう1つの馬車に絨毯らを片付けていく。
「ベガ、クエリア。馬車を少し動かせ」
「はっ」
「分かりました~」
ベガはレイラの乗った馬車を、クエリアは荷物が入れ終わり次第もう1つの馬車を動かし始めた。今日、馬車を引いていたのはこの2人だからだ。
まだ見ていないが、騎馬は2列から3列で移動しているはず。
「ロイ様。単眼鏡です」
「いや、もう見えている」
アリエスが持ってきた単眼鏡の受け取りを制し、王国方面の道すがらを見ると、2列走行10人規模で王国の旗を後方に靡かせた騎士団が迫ってきていた。
「1人か2人は止まってくれると助かるな」
「視察者がいれば止まってくださるかと」
「そうだな」
アリエスと騎士団が来るのを待っている少しの間に、馬車を動かした終えたベガがこちらに来る。
その手には鞘に収まったレイピアがあった。私の愛刀だ。騎士団が偽物の可能性がないわけではないからな。
「ありがとう、ベガ。こちらは大丈夫だ。レイラを頼む」
「はっ」
私はレイピアを腰のベルトに装着すると、馬の音がはっきりと聞こえてくる。
――バタバタバタバタッッッ。
騎士団のほぼ全員が私達の横を通りすぎたが、1頭の馬に乗った者が速度を落として目の前に到達した。その制服はまさしく騎士団員の者だ。
「こちらは王国騎士団である。貴殿らは何者だ」
高圧的な態度で喋る騎士団員。心が広いか、貴族でないと苛立つだろう。
「我々は王都へと向かう者。名をロイヴァルッシュ・ヴィ・グランツェッタと申す」
「ヴィ・グランツェッタ殿であらせられましたか!」
この大陸で【ヴィ】と付く名の者は、公爵の爵位を授かっているものだという証明だ。
諸説あるが、爵位を告げるのを面倒がった昔の王がつけたのだと言われている。【こうしゃく】の文字数よりも【ヴィ】の方が明らかに短いしな。
もう2つある爵位の証明の名は、【伯爵】が【ノル】、【子爵】が【イング】となっている。
ただ場所によっては【ヴィ・〇〇〇公爵様】と2度呼ぶこともあるが、言ってはいけないわけではないので気にはしない。
それからは貴族や平民の間にも、【ヴィ】の呼び方が浸透した。
「あぁ」
「何故このような所に?」
「盗賊に襲われかけまして」
「なっ!お怪我は!」
「ない。が、盗賊から逃げおおせたのですよ」
「我々騎士団は、盗賊の討伐に赴いたのです!もしよろしければ詳しく教えてくださいますか?!」
「えぇ、もちろんです」
私は騎士団員に盗賊から逃げた経緯を話した。騎士を2人置いてきたというとその騎士団員は、騎士が戻るまで私が警護しましょうと告げたが、丁重に断り、他の騎士団の者がレオとメダが攻撃しないとも限らないので、言伝てで敵ではないと証明してほしいと頼み、追いかけさせた。
まぁ、あの2人に限って騎士団に敵だと認識させるような言動はとならいだろう。
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