106.ポインセチア ★
王都へと向かう道すがらで、今回は夜営になるとこはなかった。
時間通りか、それより少し早めに着くなどしていたからな。
盗賊もきちんと取り締まられたようで、出くわすこともなく、私達は無事に王都へと到着した。
ただ、今回初の遠征に参加することが許されたシリウスの緊張がとてつもなった。
王都の至る所に国で祝福を表す時に用いられる、白いポインセチアの旗が飾られており、街を上げて祝いを願っている様子が見てとれた。
厳重な監査を通過し、王城の中へ入ると停留所には、王太子の生誕祭まであと2日もあるというのに、すでに数十台の馬車が停車していた。
「多いですね。停める場所はあるのでしょうか?」
「最大で50台は停められるようになっているらしいからな。まだ余裕はあるだろう」
少し経ってようやく馬車は停められるスペースを見つけたのか、揺れが小さくなっていった。
そして外からレオがドアを開け、アリエスから先に出ると私も後に続く。
後の2台の馬車からもそれぞれ降りた事を確認してから、私達はランス達と一時お別れとなった。
王城に戻った際には、陛下にお目通りをしてから客室へと案内されるらしい。
「ロイヴァルッシュさん。お世話になりました」
「いえ。こちらこそ色々とありがとうございました」
「では」
「はい。また」
他人の目が多い所では気安く声をかけようものなら、何を言われるか分からないと私達は知っていた。他人行儀になるのは当然の流れだ。
ランス達の背を見送るライラは、少し悲しげだ。
「どうした?」
「俺と2才しか違わないのにと思って」
「そうだな」
彼が10才だということは姿を見れば納得するだろうが、言動はその域を越えている。
もう少し子どもっぽさを持っても良いとは思うが、それは私達が『公爵』の位にあるからだ。『王太子』の位を持つものが、子どもっぽさをさらけ出していたら、国の未来が不安視されてしまう。
そこまで考えての行動をしているランスに、もう少しだけリラックスしてほしかったが、予定を変えるわけにはいかない。
ランス達の目的は、この国との友好関係を深めるため、わざわざ王太子の生誕祭のために遠い国から赴いたのだ。それを偽りにしては友好関係にも歪みが出来てしまうやもしれん。
たとえ陛下が良しとしても宰相や他の貴族が是としないだろう。
「ロイ様。積み荷出しが終わりました」
「そうか。なら行くか」
アリエスの言葉をきっかけに、私達は王城内に割り振られた客室へと案内してくれる者が待つ塔の入り口へと向かった。
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白いポインセチアの花言葉には、『慕われる人』『貴方の祝福を祈る』という意味があるらしいです。
挿し絵の花は、ポインセチアっぽいものです。