101.馬車の中
盗賊と思わしき男達を引き渡した後の帰りの馬車の中では、ランスの騎士2人が落ち込んでいるのを、何とか笑顔にしようとしてぎこちなくなっていた。
もちろん、理由は刃物を持った男の接近に気づかずいたこと、だろう。
そんな2人を見かねたランスが、『次は絶対に守ってくれれば』と言ったが、逆にそれが2人にプレッシャーを与えたようだ。
こんな時、我が家の騎士達なら2人の気持ちが分かり、励ましや向上のための叱咤をしてくれるのだろう。
だからあえてなにも言わずに、3人の会話を黙って聞き流して話しかけられるまで、考え事をしていたのだが…
「あの、ロシュさん」
「ん?なんだ?」
ゼイラルが窺うようにして尋ねてきた。
「怒っていますか?」
「なににだ?」
「我々が、騎士の役目を果たせない者だと…」
「そんなことは思ってないが?」
いつ、私がそんなことを思っただろうか?
少なくとも今はもう思っていない。その思いを持っていたのは、あの男が路地から飛び出してくるまでだ。だが。
「でもロシュさん。さっきから全然喋らねーよな?」
「それに殿下が狙われる前に私に対して怒っていましたから…1度心を入れ換える意味でも、謝罪をと…」
「俺も」
「待て。本当に私は怒っていない」
2人からしたら、まだ私が怒っていて何も喋らずにいると思われていたようだな。
……それに私の態度もその考えに至らせる原因になっていたのかもしれないな。
ランス達の会話を聞いていた時。私は腕を組み上になった左腕で、右の二の腕に指でトントン、トントンと一定のリズムを保ったまま考え事をしていた。
確かに考え事などをしている時に、こういった行為は他の者にも見受けられるが……何かを急かを急いでいる時やイラついているときなどにも似たような行為になる。
ゼイラルとジャルは後者である『イラつき』だと捉えて、謝ろうとしていたわけか。
私はその後2人に怒っていないことを理解してもらったが、どうしても落ち込んでしまうのなら、イブランを訪ねて叱咤してもらえと言っておいた。
失敗で落ち込んでいる中、皆に悪くないと励まされるのが逆に苦痛の時もある。
そんな時は『誉める』か『叱る』などで激励が必要で、ゼイラルとジャルは自分の失敗に対しての理解を深めて、成長するタイプなのだろう。
私のこども達、ライラとレイラは誉めて成長するタイプだ。
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