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恥の多い生涯
川の流れに身を任せ
海につけども先はなく
橋や港の見えぬまま
波に揺られて50年
人の悪口聞き飽きて
愚痴も冗句も気にならぬ
のんべんだらり日を過ごし
何もできずに明日を呼ぶ
若人のころ読んだ本
書いた太宰はいつ死んだ
波乱万丈恋に燃え
川の流れに消えてゆく
はたと私は何をした
恋も仕事も燻ぶらせ
残ったものは何もなく
一人寂しく夕餉時
二十歳のころの情熱を
消し去るような秋雨に
立ち上がる気はとうに無く
降られるままに濡れる体
私はどこで間違えた
私はどこで間違えた
戻れるならばいつにする
転機わからずここに着く
ギンギンギラリ夕焼けの
名残惜しさももう見えぬ
蝋燭の灯もゆらゆらと
じかに消えゆくわが命




