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悪の味方

悪の味方 -3-

 



(ああ、またか。また、こんな……)



 俺は意識を取り戻した。

 黒く膨らんだ身体から、徐々に隆起が失われていくのを感じる。



 そして、この後に残るのは、どうしようもない徒労感であることを俺は深く知っていた。

 腕に力が入らない。

 支えきれなくなってしまう前にと、腕に抱えるピンク色の戦闘員を地面に置いた。



 どうしようもない眠気が俺を襲う。

 今にも気を失ってしまいそうだ。



(ここで、眠ってしまったら終わりだ)



 変身後の徒労は凄まじい、これは全怪人に共通することだ。

 だから、この期を狙われて殺される怪人も多い。



 俺はウエストポーチから特製の栄養剤の瓶を取り出すと、それを一息に飲み切った。

 これで、大分マシになるはずだ。

 後ろを振り返ると、そこは血生臭い光景が広がっていた。

 あるものは首を折られ、あるものは頭を潰され、あるものは頭から血を流している。

 彼らのリーダーだった赤色のボディスーツの戦闘員も壁にもたれ掛かり、ぐったりとしていた。



(お前らが、悪いんだ)



 俺はそう思いながらも、彼らに向けて哀悼の意を込め、目を瞑り手を合わせた。

 どうか、彼らがもう一度生を受けるならば、今度こそ【幸福なせい】がありますように。



 俺はゆっくりと目を開けると、その場を立ち去った。





 ……廃ビルの窓の外には、豆粒の様に小さな黒いドローンが飛んでいた。

 それは余程高性能であるのか、物音を一切立てていない。





 ************************







「デーモン矢倉……」



 とある町の戦闘公務員事務局にて。

 会議室の巨大なモニターに、多くの戦闘公務員達が釘付けになっていた。

 巨大モニターに映し出されていたのは、【デーモン矢倉】の先の戦闘シーンだ。

 巨大モニターは、半年前から現場に試験投入されてきた【囚人戦闘員】達の戦闘をモニタリングする為、設置されたものだ。



 戦闘公務員の小林達彦こばやしたつひこは、とても苛立った気分でその場に居た。



(知名度の低い怪人と、たかが囚人どもの戦闘モニタリングだと……)

(そんなもので、毎度俺たちを集める必要がどこにあるんだ)

 

 

 ビルの屋上で戦闘が開始されてからも、小林の苛立ちは止まることが無かった。



(囚人どもめ。油断しすぎだ。変身させる前に倒してしまえばいいものを)

 

 

 白けたムードが室内を漂っていた。

 残虐な囚人どもに、怪人が拷問され殺される。

 この半年、この場で幾度となく見せられてきたのは、そんな映像だけだ。

 それでも一定の成果を上げているということで、【囚人戦闘員】の本格採用はほぼ決まりだそうだ。

 ふざけた世の中である。



 しかし、屋島が変身した後、室内の空気は一変した。

 圧倒的な戦闘力。蹂躙される囚人達。

 しかも奴は、気を失った女の囚人を守るかのように行動していた。



 それがモニターに映し出されると、会議室内はシンと静まり返った。

 屋島の変身が解けようとしている。

 小林は、居ても立っても居られず、立ち上がった。



「事務局長、今から現場に向かってもよろしいですか?」



 強い怪人が疲弊し、弱っている。この好機を逃す手はない。



「いや、駄目だ。待機しろ」



 事務局長は首を横に振った。



「何故です、今なら倒せます」

「今回の【囚人戦闘員】の活用の件はマスメディアにも大きく報じられている」

「だから、何なんですか」

「今回の一件、恐らく閉口令が敷かれるだろう。これ以上のトラブルを起こすのは避けるべきだ」



 小林は下唇を強く噛んだ。



(上の機嫌を取ることしか考えていない……市民の安全を考えていないのか?)



【デーモン矢倉】。恐らく実力はA-Sクラスの怪人だろう。

 せめて、尻尾くらいは捕まえておきたい。

 でなければ、この町の安全は脅かされ続けることになる。



 小林は一歩前へと進み出た。



「では、せめて追跡の許可を。奴のアジトを突き止めるくらいは」

「それなら、君が行く必要はないよ。【高性能ドローン】を3体も自動追跡させてる。今だって、ほら、映像に映ってるじゃないか?」



 そう言われて、モニターを振り返る。

 モニターの中の矢倉はふらふらと足取りの覚束ない様子で、外の非常階段を下っていた。



「ですがドローンでは振り切られる可能性があります」

「問題ないよ。最近の【アレ】は我々よりずっと優秀なんだから」



 はは、と笑う事務局長を、小林は睨みつける。



(どうして、そう呑気でいられるんだ)



 怪人を殺し、この町の市民の安全を守るのが、我々の責務ではないのか?



 小林が続けて、申し立てをしようとしたところで、周りが騒がしくなった。

 ”おい、モニターが……” ”あれ、どうしたんだ” ”電源が落ちたのか”

 そんな声を受けて、小林も再度振り返り、モニターを見た。

 モニターは真っ黒になっていた。



「どうしたんだ。おい、チャンネルを変えろ」



 事務局長の慌てた声を受けてか、他のドローンの映像にモニターが切り替わる。

 だが、変わったのは右上のチャンネル番号の表示だけで、モニターはどれも真っ黒だった。



「どうなってるんだ……これは」



 小林はそんな事務局長の声を背中に受けながら、すぐさま会議室を飛び出していた。



(どうなってる、じゃない。壊されたに決まってるだろう)



 小林は事務局を飛び出し、【デーモン矢倉】の居る廃ビルを目指した。







 悪の味方 -3-   終




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