ギプスの王子様
彼は足を骨折し、慣れない松葉杖で登校してきた。
「ど、どうしたのよ~その足!?」
私は思わず彼へと駆け寄った。しがない近所の親同士の付き合いとは言え、会話が無い訳ではない。
「何でもねぇよ……」
素っ気なく席へと着いた彼を心配しつつも、私はその元気そうな顔を見て一安心した。普段は仲間とはしゃいでる目立つ存在だが、意外と繊細な所も持ち合わせており、変な所で悩んだりもする。
体育は全て見学。とてもつまらなさそうな彼と見ていると、何だか可哀相だ。ふと彼と目が合うがお互いすぐに視線を逸らす。彼は後ろを向き頭を掻いた……。
「……よう」
「な、何!?」
放課後、松葉杖で器用に歩く彼に声を掛けられた。間近で見るギプスは痛々しい限りだ。
「……お前今日誕生日だろ。うちの親がよ、何か欲しいの無いか……って…………」
親同士が同級生だからか、普段から物のやり取りは多い。確か去年も何か買って貰った。何だったかは忘れたけどね。それにしても自分の誕生日の事すっかり忘れてたわ
「別に要らないわ」
「……いいのかよ。うちの親乗り気だぞ?」
「もう何かを買って貰う様な歳じゃないの。そうねぇ……窓から王子様がやって来てキスをくれるなら歓迎よ♪」
「…………」
固まる彼を見て、思わず私も顔が赤くなった。ちょっと恥ずかしい事を言ったかもしれない!
「べ、別にこういうのは歳関係無いからね! 女子は皆憧れるのよ!」
「お、おう…………」
私は恥ずかしさに耐えきれなくなり、足早に帰路へ着いた。
「今日で17か……」
私は部屋の勉強机に突っ伏し、進路の事、勉強の事、将来の事、様々な事に頭を張り巡らせていた。
「特にやりたい事も無いしなぁ~」
―――ガッ ―――ギギ
外から不思議な音がした。何かが登ってくる様な、そんな音……。
「……え? まさか―――」
私は頭を起こし窓の方を見た!
本当に王子様が来たんだと一瞬思ったが、私の目に映ったのはベランダのフェンスに掛かる、見事に汚れたギプスだった……。
「……何あれ」
私は言葉が出なかった。足を怪我した彼がくそ真面目な顔で我が家の外壁をよじ登り、二階の私の部屋までやってきたのだ!
窓ガラスの向こうで彼が小さく言葉を放った。私は仕方なく開けてあげたが、何か変なことをしようもんなら直ぐに大声を出すつもりだった。
「……いよぅ」
彼は一本足でピョンピョンと跳びながら私の方へと向かってきた。しかし、見事に蹴躓き―――
―――ドン……
私はベッドへと押し倒された。
彼の重みが私の身体に押し掛かる。
「な! 早く退けてよ!」
しかし、彼は何も言わない語らない。
そして静かに私の唇を奪っていった―――
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