【参日目御負け ~摩訶不思議体験談 弐 【篠式ルト編 ~妖精を悟った少女】】
「じゃっ、ルト。私はカイト君と遊びにいってくるねっ」
「うん、気を付けてね」
―――そして、ルトはしばらくそこで立ち止まり、空を見る。
―――ルトの頬に、ポツリと雨粒が落ちる。
「…雨」
そう呟くと、何もやることのないルトは、クルクルと回り、ステップを踏んで、道を直進していく。
雨に濡れることなど気にせず、ただ無心で、進む、進む、進む。ふんふんふん、と何かの鼻歌を歌いながら―――。
まるで操られている人形のように、華麗なステップ。
「(…私は、どうして)」
ルトの横顔は、無表情ながら何処か悲しそうである。破壊魔のことが頭に浮かび、不安になっているのだ。
無心で直進していた筈なのに、いつの間にか―――。
一度ステップを踏むのをやめ、目を閉じて、溜め息をつく。
…そしてまた、ルトはステップを踏み始める。
「…?」
空を見ながらステップを踏むルトの足音とは違う、もうひとつの足音が隣から聞こえるのに気付いたのは、少し経ってからだった。
「…ん~?」
―――そんな声が聞こえ隣を見ると、にこりと笑った少女――いや、少年だろうか、がいた。
ルトには少女に見えるようなので、ここは少女としておこう。
「貴方、は...」
目を見開いて、ルトは隣にいた少女を見つめた。
「....あっ、ごめんごめん。なんだか楽しそうだったから、一緒に歩きたいなーって。」
「は、はぁ....」
「...ねぇ。名前、聞いていい?」
「...ルト。篠式、ルト。あなたはなんって、名前なの」
「えへ、僕は―――」
名前を言おうとした少女の声を遮るように、ドカァァァァン、と、音がする。
「破壊魔―――!! ど、どうしよう....」
「...っ、しょうがない....ちょっと待っててね。」
「.....?」
―――そう言うとその少女は、羽を生やし、破壊魔の方へと飛んで行った。
「っ....!!? は、羽―――」
「待ってて―――ちゃちゃっとやっちゃうから―――!!! とりゃあああっ」
ドカッと音を立て攻撃し、破壊魔の血がポタリポタリ、いや、それ以上の勢いで飛び出る。
「グエビギィア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッア゛ア゛ア゛ア゛!!!?」
「ヒギャァァァァァァァァァァァァァギィィィィィィィィィィィゴバァァァァァァァァ!!!」
「うおおおおおおお――――りゃあああああああ!!!」
少女は叫び、破壊魔にとどめをかける。
「「「ギヒィアグァァァアァァァァアアァア!!!」」」
そして、少女はルトの方を向き、ニコリと笑う。それに対し、ルトは少し驚いた様子で、ぎこちなく頷いた。
少女はルトに近寄り、言う。
「…ねえ、僕がこういうことが出来るのは、他の人には……秘密だよ?」
「…うん」
ルトは緊張しながら頷く。すると、その反応に、少女は苦笑した。
「あはは、そんなに怖がらなくてもいいよ~。何もとって食おうとしてるわけじゃ、あるまいし。
…あ、ほら、晴れてきたよ。」
空を見て、少女は微笑む。
「……僕ね、妖精、なんだ。性別とかは、なくて。破壊魔の気持ちで出来たこの世界を、壊しにきたんだ。破壊魔の人間に、僕は壊されたから――」
「…やっぱり」
そんなルトの反応に、少女――いや、妖精はまた笑う。気付いていたんだね、と――。
――――そして、空を見ながらの沈黙が続く。
「…あっ、やばっ…!! …僕、仲間を迎えにいくんだった…! ごめんね、すぐ行かなきゃだから…!」
沈黙を破ったのは、妖精の慌てた声だった。
「あ、うん…」
「また縁があったら会おうね、ルトちゃん。
じゃあねっ」
「…うん…」
そう言うと、妖精は急いで飛んで行った。
「....なんだか、不思議だったな....」
晴れた空を見上げながら、ルトは呟いた。
この妖精の正体も、きっといつか分かるのだろう――――。