知り合ったきっかけ
月末に、しかも給料日前でお金がない、あと、週末にひとりぼっちというのが堪らなく嫌だった。
今すぐ会えてお金をくれるなら誰でも良い。ケータイの出会い系サイトに自分のプロフィールと3万でホテルもOKと書き込む。返信が30分もしない内に来る。40歳のサラリーマンから。今すぐ会いたい、とある。あたしはすぐに指定された待ち合わせ場所に向かった。
普通に生きるというのは、以外に疲れるものだ。少なくともあたしにとっては。高校を出てすぐに就職して、毎日、それなりにうまくやっているつもりだった。だけどあたしの心の奥には得体の知れない空洞があって、それは日を追うごとに肥大化していった。
空洞はまるでブラックホールの様だった。ありとあらゆる物を欲しがった。
一時、あたしは買い物にハマった。それも量が尋常ではなかった。おかげで毎月赤字で両親から借金までする様になった。
いよいよ部屋に物が溢れるようになると、今度は全て捨ててしまいたくなり、必要な家電まで捨ててしまった。
出会い系を始めたのはその頃だった。お金までもらえて恋人気分を味わえるなんて最高だ。最悪、お金が貰えなくても、とりあえず淋しい思いはしなくて済む。
しかし、物事そううまくいかないものだ。いつものように週末、サイトに書き込みをし、返信してきた男と会うために待ち合わせ場所へ向かうと、そこには会社の上司がいた。
こいつ、家庭もあるくせに何やってんだ。気持ち悪い。自分の事は棚に上げて、あたしはそう思った。
で、その日は結局上司とホテルへ行くハメになったのだが、それを会社の人間に見られていた訳だ。
あたしと上司が不倫していると会社中で噂になり、上司は左遷。あたしはクビになった。
鈴木さんと出会ったのはそんな折だった。
会社をクビになったあたしはフレンチレストランでアルバイトを始めたのだが、鈴木さんはその店の常連だった。
来店する時はいつも小綺麗なスーツを来て、女を連れていた。女は来る度に違う女。
また、女を連れている癖にあたしを含めた全員の女のスタッフにまで妙に愛想をふりまく。
変な奴だと思った。
顔だってたいしたことないのに、こうゆう奴に限って以外とモテたりするんだよな。あたしは絶対にごめんだけどね。
そう思っていた。
「お疲れ様です」
給料日前、オーナーから給与明細が渡される。
「ありがとうございます。」
給与明細を貰った瞬間はやっぱり嬉しい。しかし、それを開けてみたとたん暗澹とした気分になる。
今の仕事に就いてから収入がかなり減った。
普通に暮らしていても赤字になるくらいだ。
まぁ、当然といえば当然だ。正社員とアルバイトでは手取りが全然違う。
貧乏は、心まで荒ませる。
例えば、街を歩いていて、ブランド物のバックが目に入ったとき、それを買えないのだと思うと、あたしは自分が生きる価値すらない人間なのだという気分になる。
なんとかそのブランドショップを後にしても、街を歩いていればあらゆる看板が、声が、映像が、あたしを追い詰める。あれもこれも欲しい。でもあたしはどれも買えない。この街は、本当に素敵なモノで溢れている。
上司との一件以来、あたしは出会い系サイトへの書き込みを全くしなくなっていた。
もしかしたらまた知り合いとヤる事になるかもしれないと思うと自然と敬遠するようになった。
しかし今はそんな事を言ってられない。
あたしは再び書き込みを始めた。
沖田マリ。20歳。
彼氏はいません。淋しいです。3万でホテルもOKです。今すぐ会えませんか?
あとは返信を待つだけ。何もかもいつも通りだ。
書き込みをしてから約30分。返信が来た。あたしは慌ててケータイを開く。
相手の男は30代のサラリーマン。場合によっては10万出す、と送って来た。
こんな奴、普段のあたしなら胡散臭いと思ってスルーするが、今回は違った。今はとにかくお金が欲しいのだ。あたしは手持ちの服で1番高い物を来て会いに行った。
その時はまさか、その相手が鈴木さんだとは思いもしなかった。




