はしれ彩葉
「彩葉、凄い走っていったねぇ。」
「ほんとうに」
私は笑ってしまった。あんなに必死な彩葉を見たことは一度も無かった。
自分のスマホに目をやる、そこには見出しとして『速報 天才 本因坊 鴻心憧れの人がいる模様』という文字が並んでいる。
そこに切り取られたインタビューが添付されていた。鴻ノ池さんとアナウンサーが並んでいる。
『鴻心九段に憧れた人や目指した人というのはいるのでしょうか?』
『憧れた人は一人いますね。その人目指して打ってたんやけど、昨日久しぶりに見たら囲碁やめちゃってたんだす』
『その憧れの人というのは?』
『小学校の時の同級生で僕の初恋の子なんですけどね』
『ほう! そんな人が! 』
『たぶん同年代のあの時代であれより打てたのは僕くらいでしょうね。
あの子なら僕を倒せると思ってたんやけどなぁ。』
『それは凄い人なんですね! また一度打ってみたいんじゃ無いですか?』
『まあ、あの子に今一局指そうと言われても』
『言われても?』
『死にさらせって返しますわ』
『それはまた?』
『ぼくが小学生の時に言われたセリフですからね』
「キレてたねー」
「ものすごくキレてたねー」
「まさかあの子があんなにも負けず嫌いだったとは」
私は激怒した。必ずかの邪智暴虐の本因坊を倒さねばならぬと
ヤツの昨日の対局は確か椿山荘、飯田橋か!!
今は朝8:20分、チェックアウトにはまだ間に合うはず。
ぜってえ許さねえ!!
私の高校から飯田橋までは大体20分全力で電車に滑り込み、椿山荘に最速で到着した。
そのまま、カウンターへ行く
「すいません! 昨日ここで対局していた本因坊の鴻ノ池 童心にとりついでもらえますか!!」
「申し訳ございません。どういったご関係でしょうか?」
私の怒気に押されてくれないかと思ったけど、さすが高級ホテル。そりゃ無理だ
「いや、どういう関係かと言われるとえーと何というか」
ヤツの憧れのあの子です。いや無理があるだろう。なんでそんなキレてるんだって話だ。
じゃあなんだ?
「あのとりあえず一回取り次いでもらえませんか?畝傍が来たって」
そういうとフロントマンさんの顔が変わった
「畝傍 彩葉様ですか?」
「は、はいそうです。」
「でしたら、こちらのカウンターで鴻ノ池様からお手紙を預かっております。」
そういってフロントマンは手紙を出して、あちらの席でどうぞ。とロビーに通してくれる
私が座って手紙を開こうとするとフロントマンがドリンクを持ってきてくれた。が、財布をおいたままICカードで来てしまった事を思い出した。
「すいません。私、お金」
「大丈夫です。鴻ノ池様がお支払になられました。」
うーん何か腹立ってきた