毒
「おはよー」
「おはよー、風邪は大丈夫だった?」
「何がおはよーだ。なにが風邪大丈夫だった?だ。メール一つ寄越さなかったくせに」
私は橿原と生駒に嫌みを言う。
「だって、風邪じゃなかったでしょ」
「んだんだ」
私に女優は無理か。この美貌を持ってすればなんとかなるんじゃないかと思ってたのに
私は生駒の頬を引っ張る。おお、のびるのびる
「ふぃふぁいよー。ひゃふぇふぇー」
ふぃふふぃふ言ってる生駒は本当にかわいい!!
そんな色々なことから逃げようとしている私を見て橿原が見るに見かねて聞いてくる
「で、この二日間見てみてどうでした?」
・・・・・私は生駒の頬から手を離し、橿原に向かい、なんのこっちゃみたいな顔をしてみた。
「はぁ、あんたね。それは無理でしょ。昨日一昨日と鴻ノ池さんの対局見て何の感想も沸かなかったの?」
そう真剣に聞いてくる友人。ここではぐらかす事も簡単だろう。けど、私を心配してくれている人にそんな適当なことをしたくなかった。
「・・・・・正直に言っていいの?」
「いいよ。」
「結構重いよ?」
「仕方がない。聞いてやろう」
口を開ける。空気を吸い込む
「死ぬほどいらいらした。手が読めない、わからない、私の予想の遥か上を行く手を組み立ててくる。
私が勝手に手放したのに、私が勝手に見なくなったのに。長く休みすぎた。別に戻る気はないのに、それなのにどうしようもなくイライラする。」
生駒がひっぱられた頬をさすりながら聞いている
「私もあいつと闘っていた。いたのに、私がそこに戻ることがないって事実を私は私が許せなくなった。」
「脳髄が腐りきってる気がする。知識が薄れて、分からないを言い訳にして、自分の退化に目を向けないようにしている。私の脳がもうトップを目指せるものじゃないと自分に言われたんだ。そんなの許せるわけがない」
「クソみたいな私は昔強かったんだって自分で自分に対して言った言い訳が私を苦しめる。
イライラして、イライラして、イライラして、イライラして」
「自分が利己主義者って事実を久しぶりに思い出して最悪の気分」
私は私のなかで蓄積された毒を全部吐き出す。
それを聞いていた生駒と橿原は目を開けていた
「ほぇー、思ったより素直に吐き出した」
「いやほんとうに。もっとうだうだ言うかと思ってた」
友人からの評価低いなー! わたし!!
「って言っても、もう打たないからね。関係ないけど」
そう笑っていうと、橿原が微妙な顔でSNSを見せてきた。動画が添付されている。
「いや、本当に見せるか迷ったんだけどね。その様子じゃインタビューまで見てないよね」
そういわれ私は渡されたイヤホンをつける
橿原が画面をタップし動画が始まるとそこには鴻ノ池が立っていた。
2分30秒無言で私はそれを見る。そして立ち上がる
「ごめん、先生に今日は遅れるって言っといて。」
「いてらー」
生駒の返事に頭を撫でくりまわしてから私は走り始めた。