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天を打つ  作者: ああああああああああ
6/28

いらだち

翌日の水曜日、私は風邪を引いた。ことにした。


母さんの前で必死に咳き込み学校を休んだ。なのに、私の風邪(えんぎ)を何も心配してないかのようにさっさと仕事に行ってしまったのだった。


これは見透かされてるなぁ。

私は自分の演技力に少し反省をしながらPCを起動し、某動画サイトにログインした。何年ぶりだろうか

本因坊 鴻心と坊城 裄人(ぼうじょう ゆきと)挑戦者の姿がうつる。

本因坊決定戦第一局が始まろうとしていた。

対戦前の解説者とアナウンサーの話では若すぎる鴻心では厳しいのではないかといものだった。

が、対局が始まり5時間。挑戦者の持ち時間残り4時間30分に対して鴻心の持ち時間6時間30分。

この時点で若干鴻ノ池が押している展開になっていた。


さて、囲碁には通常、対局ごとに持ち時間がある。それは棋戦によって様々だが今回のようなビックタイトルの挑戦戦になると一人あたりの持ち時間は八時間と長丁場だ。

一概にこう、とは言わないがやはり持ち時間というのはその分の余裕があるということ。精神的な負担で言えば無いより有る方がいい。


さてさて、優勢を離さない鴻ノ池の対局を見ていて分かるのは大事な初戦で落としたくない鴻ノ池の悪魔のような筋は数年たって、より精錬されたものになっているということ。

彼の一挙手一投足にはそれぞれ意味が有るのではないかとすら思える。


結局その日は終始優勢を握られたままの挑戦者の封じ手によって対局が締められた。

何とも言えない気持ちを抱えたままPCを消してリビングに降りると母さんは帰ってきていた。


「おかえり」

「ただいま、対局はどんな感じだった?」

「やっぱり鴻ノ池が押してたかな。強いわ。とりあえず今日は封じ手で終わったから、明日どうなるかは分からんけど」


母もやはり鴻ノ池の対局に興味があったようで帰りの挨拶もそこそこに結果を聞いてきた

そんな質問に私は正直に答える、そんな私を見て母さんはあきれぎみに


「あんた、やっぱり風邪なんかひいてへんやんか」

「・・・・謀ったな」

「何、あほなこと言うてん。明日は風邪ひかへんねやろな」

「・・・・・何とも言えない」


そういうとため息をつかれ


「明日、私早いし兄ちゃんも家おらんけどちゃんと学校いきや。」

「風邪が長引くようなら自分で電話いれ。」

 

 翌日


「はいはい、すみません。今日も大事をとって休ませてもらいます。」


いや、うん。わかるやん

そういってまたPCを起動し、対局を見る。

 

昨日の終わりには少し押している程度だった鴻ノ池の碁は中盤以降牙を剥いた。

強い、鴻ノ池があまりにも強すぎる。相手が比較にならない。相手の坊城も間違いなくトップ棋士の一人だ。その坊城を持ってしてもこの濁流は止められない。


また、私は違う苛立ちも感じていた。

私も一昔前は天才と言われた人間のはしくれ。弱くはなかったはずだ、しかし、私の手は鴻ノ池にハマらない。

鴻ノ池の次の手を読み予想を立てるがそれを遥かに凌駕する手を組み立ててくる。


自分の脳の衰えを感じる。脳髄が腐りきっている気がする。囲碁を諦め、触れなくなって、見なくなって4年。

自分の腕が衰えるにはあまりに充分すぎる時間だった。


イライラする。


手が読めない


筋が見えない


圧倒的な差が埋まる気がしない。


当たり前のそんなことにイライラが収まらない。

私は何にこんな収まりを感じないのだろうか。

何かに押し潰されそうで溢れだしそうな感情を何とかコントロールしながら私は中継を見ていた。


 結局、この本因坊決定戦第一局は本因坊 鴻心の圧倒的勝利となり幕をおろした。

 

 

ストックがなくなる!!

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