表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天を打つ  作者: ああああああああああ
3/28

再会と散会

「うまいなコレ」


 私は感嘆の声をあげてしまった。いちごが思ったより甘酸っぱい。うん、クリーム抜いてもらって正解だった。


「うん、うまい! しかしちと高いよなー。かわいくない」

「そのたまに出てくるオッサン本当になんなの」

「おしとやかなアナタはどこにいるの?」

「そんなもんは幻想じゃい」


 私たちはアホな掛け合いをしながらスタバから移動し本屋に向かっていた。

 そのまま店内に入る。特に見たいコーナーも無かった私は、とりあえず雑誌コーナーを横目に歩いていると。

『天才』その文字が目に入った。

その表紙を見るとヤツがいた。

着物を身に纏った天才

本因坊(ほんいんぼう) 鴻心(こうしん) 九段』

 本名 鴻ノ(こうのいけ) 童心(どうしん)

 圧倒的な棋力と恐ろしく美しい棋譜を残し中学一年生の時、突如関西から日本棋院の入段試験に参戦。あれよあれよと言う間に、院生を踏破しプロ転身、高校一年生にして国内最高峰の本因坊リーグを勝ち取った真の天才。

 その才能を持ってしても、彼は努力を怠らず研究を続ける、別の才能をも持ち合わせる。

 偽りの天才はその才能の前に容易く討ち滅ばされた。


「あー!その人知ってる。私たちと同じ歳なのにスゴいよね。この間情熱大陸にも出てたじゃん」

「生駒あんたはうるさいね」

「橿原いーたーいー、うりうりしないでぇ」

「それにしても本因坊? 私、囲碁とか将棋とか全く見ないから知らないわ。この人のファンなの彩葉」


 橿原がこちらを伺ってくる


「別に知らない、ただ目についただけ。何が天才なんだかね。囲碁なんてジジババしかやらないでしょ? 理解できないなぁ」


全く意識してないのに、早口になってしまう。焦っているのだろうがはずかしい。絶対橿原はいぶかしんでる。しかし、そんなときだった。


「そりゃあ酷いわ」


 上から声がする

 ・・・・・は?


「あんなけ熱く語り合ったのに」


 声のする方におそるおそる顔を向けると着物を着たノッポがいた。本因坊鴻心がなぜかそこにいた。

 それに気づいた生駒がいち早く声を上げる


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!スゴい! スゴい! 今ちょうど話していたんです。この間の情熱大陸も見てました本因坊・・・・鴻心さん?」


 あ、コイツ今チラッと雑誌見やがったな。ミーハー過ぎんだろ


「そりゃどうも、応援ありがとう。」


生駒にそう、にこやかに対応した後私に向かい合って

 

「けど彩葉ちゃんがまさか僕を忘れてるとは思わんかった」

「何が彩葉ちゃんだ。死ね」

「あらま、嫌われてるやん」


 そう言いながらヤツは頭をぽりぽりと掻く


「知り合いなの?」


 はぁぁぁぁぁ。とか言いながら一生ミーハーってる生駒に対して、ミーハーってない橿原が聞いてくる

 

「・・・・ごめん。ちょっと出てくる。私のこと気にしないで先に帰っといて」


 が、一刻も早くその場から離れたかった私はそれだけ言って私はヤツの袖を持ってズルズルと引っ張った

 

「どうも久しぶり」

「久しぶりやなぁ」

「・・・・・・・・」


 会話が続かない


「あんた、どうしてこっちにいるの?」


 コイツの所属は確か関西棋院だったはずだ


「対局や、対局。あと別に用が無くても来てもええやろ。旅行くらい誰でもするわ。あ、でも君に会ったのはたまたまやでホンマに」


 そう言いながら和服の裾に手を入れ腕を組んだ、つーかコイツめっちゃ背が伸びてるな首が痛い

 近くの喫茶店(ここ重要、万が一にもおしゃれーなカフェで誰かに見られたらたまったもんじゃない。あくまで喫茶店だ)に入った私はコイツと向かい合って座った。


「関西弁は消えたんやな」

「こっちに来て何年だと思ってる?もう6年、そりゃ方言の一つや二つ消えもするよ」

「ついでに囲碁もやめたと」

「・・・・」


四年前の入段試験、私もそこにいた。

関西で猛威を奮っていた私だったからこっちでもそこそこやれた。やれていた。

しかし、関西から突如現れたコイツとの対局で私のプライドや積み上げて来たものは全て打ち砕かれた。

本選の初戦、何の因果か院生だった私はコイツと当たった、因縁じみたものを感じていたが、そんなものは無かった言わんばかりのコイツとの対局、その一局だけでその後の私の調子は狂った。

分かっている、そんな一局で調子を落とすようじゃ、今後やっていけないと。

けれど、もがいてももがいても亡霊のようにあの美しく悪魔のような対局が私の頭から離れないのだ。

結局、その亡霊から逃れる事が出来ずに私は囲碁をやめた。

これ以上このゲームを嫌いになりたくなかった。

全ての盤や石、本や棋譜を押し入れの奥に片付けた。

親は心配したが、存外私が楽しそうに日常生活を送っていたから、それほどの心配はしなくなったのだった。

コイツの言う、私をいなせるは事実だったわけだ。


「あの試験からすぐやめちゃったんやろ。」

「まあ、自分の才能にも限界を感じていたところだったから」


これも事実だ。私は下を向いた。

それから何分そうしていただろうか


「まあ、ええやん。今日は久しぶりに会えた良かったわ。僕は明日に備えてホテルに帰りますわ」


そういって、ヤツは伝票を手に取った

私が財布を取り出すと


「別にええで、初恋の女の子にかっこつけさせて。けど最後に嫌み言わせて。」

「・・・・・・・」

「君ともうちょい打ってみたかったわ」


そう言って支払いを済ませ色紙にサインをして帰っていった。マスターお前もミーハーかい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ