一方
「さてと」
僕は立ち上がるとルーティーンの体操を始める。何てことはない背が伸びはじめた成長期に成長痛を和らげる為に始めたものがルーティーン化されて未だに続けているだけだ。だからこの動作に特に意味はない。15分間しっかりと体をほぐしてからシャワーを浴びて学校に向かう準備を始める。別に学校に行かないという、選択肢もあったが何となく校則の緩そうな学校を選んで行った。当初囲碁の勉強用に買ったこの部屋に今は半分と言うか殆ど住んでいる状態で、実家に帰ることはあまりない。がらんとして家具もあまりないこの部屋に僕はもう二年近く住んでいた。
パンをもそもそと食べながら外に出る。自転車の鍵を開けて股がり学校までの道を走り始めた。頭のなかで棋譜を読みながらの登校はなかなかに心地がいい。
ところで、ここで一つ問題があることを提示したい。こんなに余裕こいてるが、この私遅刻寸前だということ。そして、対局で休みまくってるせいでそろそろ本当に先生にキレられそうな予感がある。
そんな状況のため、心持ち早めに走っていた僕の目の前に、突如前を走っていた男が、僕は死にましぇん!!と言わんばかりに立ち向かっていた。
「あぶねえ!!!」
「おはよう! 童心、 後ろのせろ!!」
「ふざけろ。僕だって急いでんねん」
「学校で職業ばらすぞ」
ギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコ!!!
「クソ腹立つなぁ!!」
「ありがとう童心。オレ オマエ スキ」
「学校近くで降りろよ!」
「大丈夫!!」
「それ返事なようで返事になってないことそろそろ気付けや!!」
「朝からギャンギャン吠えんなや。画面の向こうのクールなオマエはどこ行ってん?」
「お前としゃべる時だけや!!」
朝から何が楽しくて全力で二人乗りしなくてはいけないのか。僕はそもそもこんなに喋るようなやつではない。けどコイツだけはダメだ。中学でひょろっと現れて、僕の職業をどこかしらから入手しそれを出汁に、思い出すだけでエエことないな。こいつと知り合って。
「僕一人なら絶対間に合ってたのに」
「ええから、はよ漕げや。間に合うもんも間に合わんわ」
「振り落とすぞ!!」
「ほら頑張れや」
「はよ入れ~。チャイムなるぞ」
「おはよ、冴ちゃん先生!」
「冴ちゃん言うな」
「おはようごさいます。先生」
「はい、今日は間に合ったな。急げよー。・・・・ん? おいちょっと待て。」
「「はい?」」
「お前ら二人ともこっち」
「「・・・・はい?」」
「お前ら二人一緒に来たな」
「「はい」」
「鴻ノ池オマエはまあ分かる。汗だくだな」
「はい」
「西ノ京オマエ」
「はい」
「汗一つ書いてないな」
「走れ!童心!!」
「オマエもう本当に死ねよー」
「はい、おはようございます。西ノ京と鴻ノ池後で職員室に来るように」
ま、そりゃそうなる。
プロ棋士だから。天才だから孤高の人だと思われがちだがそんな訳はないのである。これが僕の日常だ。