通報もの
「うーん、ま生駒になら話しても良いか」
「あ、ちょっと待って」
生駒が私の話を遮って携帯を取り出し、そのままどこかに電話をかける
「はーい。元気かい? まいはにー橿原。何かね、彩葉が面白い話してくれるって! 今? ここどこだ?えとね! 新宿駅からちょっと離れたとこ。何分位でつく? あ、今神保町なのね。じゃあ15分後。愛してるぜベイビー」
そして電話を切りにっこり笑う
「橿原あと15分くらいで来るってさ!!」
「いや、なんでやねん!!」
「で、先生とは?」
私たちは、またかの喫茶店に来ていた。どうも、前回あのバカたれが、結構な額を置いていったらしく帰り際マスターにまた来てくれなきゃ困ると言われていたのだ。
「えーとですね。私の囲碁の先生なんですけどね。」
「あ、そうだ久しぶりだね彩葉」
「久しぶり橿原」
「話の腰を折らないでよ橿原。はい続き」
生駒が珍しく仕切りながら話を進めるように促す
「私がちっさいときから教えてくれてた先生でね。麻布って人」
私が、『普通に』話していると二人が何故か心配そうに顔を覗き込んでくる
「どうしたの彩葉?唇から血色が失せてきてるよ?」
「声も後半も震えまくってるよ」
「いや、あの人との研究思い出しただけで既にちょっと吐きそう」
私はヤバい顔をしている自覚を持った
「何がそんなにやばかったの?」
「いや、碁自体はメチャクチャうまいんだよ。マジで頭おかしいレベル。けどさ」
「けど?」
「碁の才能と引き換えに多分人間として大切なもの全て無くしてんだよ!」
「というと」
「まず暴言がもうヤバイよね。『あほボケカスナス死んでくれ。お前に吸収される酸素が可愛そうだしお前に吐かれる二酸化炭素も可愛そうだから死んでくれ。』まあ、他にもここでは言えない事も普通に言われるよね」
「いや、普通にヤバい」
「思ってたよりもヤバい」
生駒と橿原が露骨に引いていた。
「本当に怖いんだよ!どうやってもさ!私が分からない問題あるとするじゃん!? ヤバい本当に怖い。怒鳴らないの一言死ねよって言われる! 怖い!!超怖い!! それがさ、15.16歳相手ならまだ分かるよ!! 私その時5歳の女の子!! そりゃ泣くよ!!! 泣いたら泣いたで『無能がびーびーびーびーお前より優秀な草木様が作り出した酸素を無駄に消費してんじゃねえよ。ほら草木に謝れ』って謝らせるの!!草木にイヤイヤイヤイヤ」
私の溢れ出る怒濤のトラウマにさっきですら露骨だった二人の顔は物凄いことになっていた。そりゃそうだ。河川敷で5歳の女の子が号泣しながら草木に「ずみ゛ま゛ぜん゛でじだぁぁぁぁぁ」とか謝ってたら普通にヤバい。
そこで大の大人が「びーびーびーびー泣くんじゃねえ!!」とか言ってたらもっとヤバい。そこらへんまだおおらかな関西で本当に良かった。あれ普通なら通報ものだろ。