かわいい
その後、大久保さんはバッカ、おまバッカ!!と言いながら、帰る!!と言って帰っていった。さすがの私でもあれを引き留めるのは無理だった。
「うーん、しかしやっぱあれだなぁ」
やはりと言うかなんと言うか、しっかりショックだ。私は前の私ほど強くない。あと3ヶ月予選が始まるまでにやらなければならないのとが山ほどあることを実感する。
プロ棋士が前の私にとって実現可能な目標であったのに対して、今の私にプロ棋士は憧れだ。やらなければならない事を並べたら、並べた分だけ、それに到達するまでの途方もない距離が私の前に立ちはだかっていることを実感した。
「やっぱあれかー、先生の所にもう一回行くしかないかー」
私は立ち止まって、無意識にぼそりと呟いた
・・・・
「あれ?私今何か恐ろしいこと呟かなかったか?」
先生、何だそれ。だめだ頭が痛くなってきた。あれだけ私はエゴイストだ。取り入れるものなら何でも取り入れるとか、格好つけてたけど、あれはダメだ。
「いや、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ、何回考えてもダメだ!! あの人のところにもう一回行くと多分メンタル死ぬぞ私!」
強くなるためには先生が必要なのも分かってる、それは分かっているけど、それを自覚した途端無意識に奥に奥に追い払っていた記憶が甦ってきた。
「あかん、殺される」
「何が?」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
唐突な声かけに私は叫びを上げた
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
相手も私に驚いて声をあげる。そこにいたのは
「な、なんだ生駒か!!」
「なんなんだよぅ、彩葉のバカ!」
「グスッ。で、何をそんなにダメだダメだって悩んでたの」
涙目の生駒 (かわいい)を落ち着かせて一緒に歩く。どうやら話を聞いてくれるみたいだった。
「うーん。どこから見てたの?」
「先生のところ行くかー位から」
「結構見てたな」
そりゃ、そんなところから見て、いきなり何かに怯えはじめたらいくら声を掛けるなと言われてても声を掛けたくはなるだろう。生駒は心配そうに言葉を続ける
「で、先生と殺されるってワードなかなか繋がりがありそうにないんだけど」
「いや、まあ、そうなんだけどね。えーとね先生ってのは、私が割りと小さいときからお世話になっているプロ棋士なんだけどねー。ちょっともう一度教えを請おうかなっていう気の迷いが生じてさ」
「え!?」
生駒が何かに驚いて立ち止まった。そんなに先生に教えてもらうって言葉が変だったか?不思議そうな顔をしながら私は生駒に質問をする
「ん? どうかした?」
「帰っちゃうの?」
「は?」
「彩葉、関西に戻っちゃうの?」
心配そうにこっちを見る生駒。あー、なるほどなるほど、小さいときからの先生だから関西の人だと思ったわけだ。なんだそんなことか。コイツ抱き締めたろっか!! クソかわええやないか!!
「帰らないよぉ!!生駒!そんな悲しそうな顔をするでないよ」
私もついゲロ甘な対応をしてしまう。
「けど、先生は?」
「こっちの人だよ!!プロなんだけどね、関西に愛人がいたから良く来てたんだよ!」
「あ、愛人て」
上げるの忘れてた。何かしら反応があるとモチベーションに繋がるので反応があったら嬉しいなぁと思います。