ヘタレ
そして、とうとう感想も終盤に近づいた。
ずっと喧嘩をしながら
「いや、だからね?」
「そうじゃないのですよ!この手は!!」
その頃には私たち以外で石を打つ人はいなくなった。かわりに私たちを中心に人だかりが出来ている。
「またよく分からない話してるよこの二人」
「この嬢ちゃん本当に何もんだ?」
「お前若いから知ってるだろ?」
「いや、俺もどっかしらで見たことがある気はするんですけど」
「かーつっかえねえなぁ」
そして高の原さんが最後の石を盤に打つ
「これが最後だね。ずっと、気になってたみたいだけど」
「うーん、そうなんですよね」
私はもう一度俯瞰的に盤面を見る。うん、さっきより視界がクリアだ、盤面に潜る潜る潜る潜る。
「この嬢ちゃんは何してんだ? 人差し指をあごにトントンして」
「考えてんだろ?」
「うーん、この動作絶対どっかで見たことあるぞ」
「若いのお前ずっと同じ事言ってんじゃねえか」
「いや、そうなんだけどさ!どこかなー絶対に見たことあるんだよ」
回りの雑音も今や聞こえなくなっている。
「あー、なるほどココか」
ふいに謎がとけた。
「ん?なんだいこの手は?」
「いや、これで多分寄せまで持っていってコミ入れても私の一目半勝ちになります。ここ生きるんで」
私は石の密集地帯に指を指す。
いやいやなんて回りも言いながらそこから先を打ち続けてみる。すると途中から空気がかわった
「あれ?」「これ?もしかして生きるのか?」「いや、でも?」「いや、これ生きるぞ??」「ありえねえ」「この嬢ちゃん本当何者なんだ??」
高の原さんも信じられない物を見る目でこちらを確認する。
「まー私も四子おいてコレですからねえ。ダメですね」
「君いったい何者だい?」
さっきの雑多と同じ質問をしようとした。その時
「ぬぁああああああああああああああああああああああああああ!!お前思い出した!!畝傍じゃねえか!!」
と若者がこちらに向かって叫んだ。なんか聞いたことある声だ
「うっ!!」
「お前、こんなところで何してんだよ」
私はその声の方をちらっと確認してみる。
「うーわ大久保さんや」
そこには私の院生時代知り合いが立っていた
「うーわ違うだろ。お前碁やめたんだろ?!」
「別になんでもいいでしょ」
「そんな変装しやがって。何かおかしいと思ってたんだ。あの人差し指であごをトントンする癖な!!」
「えー、大久保さん私のそんなところまで見てるんですか?キッモ!!」
「き、きっもって」
私の怒濤の口撃に大久保さんが怯む。その隙を私は逃さない
「てか別になんでもええですやん。私が何してようと大久保さんに関係あります?ありませんよね?この間桜ちゃんに会って癒されたのに、次は大久保さんとか。あーついてない。はークソ」
「滅茶苦茶言ってるぞ?!お前!」
「じゃかしいわ!私に一回も勝てたことないクソ雑魚ナメクジ」
「く、クソ雑魚ナメクジって」
「すごい悪口やな」「どんな生き方してたらあんな悪口思い付くんだろう」「すごいなこの子」「やばいちょっと興奮する」
「お前」
「あ?」
「畝傍」
「は?」
「畝傍さんは」
「あら、大久保さんなに?」
大久保さんが一度小さくクソっと悪態をついた聞かなかったことにしてやろう
「畝傍さん囲碁をもう一度始めるって噂。あれ本当なんですか?」
「やとしたら何やねん」
「いや、あの、その」
「なに?」
「なんでもないっす」
「ヘタレたな」「ヘタレましたなぁ」「そこいかなくちゃ行けないところでしょう」