頭から消えた 8
何かこそばゆい気持ちになる男。
中川という名字にもピンとこない。
「えっと。まあ、とりあえず中を見せていただいて宜しいでしょうか」
生野の言葉に戸惑う中川。
何故だか入れたくない衝動が溢れてくる。
それは何故だかは分からないが。
「あのお。大丈夫ですか」
ボーッと立ち尽くしていた中川に生野が問いかける。
ハッと我に返った中川が咄嗟に言う。
「いっ、今は家が散らかっているのでまた後日にしてください。それまでに整理しておきますので」
急に体裁を繕ったからか生野が不信感満載の目で中川を見る。
「片付けなら私も手伝いますよ。それに、片付いてしまっては私の仕事も無くなってしまいますからね」
中川があからさまに苦い顔をする。
どうする。ここはいざこざになったら不味いぞ。
仕方がない。妥協するか。
男は深く溜息を吐き手で生野を屋内へと促す。
「どうもありがとうございます」
爽やかに生野が頭を下げて言う。
玄関を入ると生野が慌てたように鼻と口を手で覆った。
「何ですかこの臭いは。何かが腐っているのかも」
眉をしかめて生野がえずく。
「自分にも分からないんです。まだ全てを調べた訳では無いですし」
「とにかく。こんな腐臭がして埃だらけのところに住んでいたら病気になりますよ。早く掃除しないと」
生野はそう言うとポケットに折りたたんで入れておいたゴミ袋を取り出した。